海外医療の現場から メディヴァ海外事業部ブログ

タイでの学生生活を振り返って

2017年10月04日(水)


皆さまはじめまして。今年(2017年)9月にメディヴァに入社いたしました小池依於奈と申します。新入社員ということで、今回は私の自己紹介をかねて今年8月まで1年間タイ、マヒドン大学で公衆衛生を学んだ経験を紹介させていただきたいと思います。
マヒドン大学は、タイで最も古い教育機関の一つであり、大学ランキングではタイで1位、アジアでは44位とタイを代表する医療系総合大学です。タイ全土に4つのキャンパスがありますが、私が滞在していたのはバンコクから車で40分ほど走ったところにあるサラヤキャンパスです。キャンパスは東京ドーム約45個分という広大な敷地を持ち、キャンパス内の移動は、自転車やミニバスを使う必要があるほどです。敷地内には川が流れ、緑がたくさんあり、巨大トカゲやリスなどがのびのびと生活している自然豊かなところです。


201709_Thai01
↑キャンパス名物の巨大トカゲ
暑さでばてて、動けなくなっているところを卵で川まで誘導中

201709_Thai02201709_Thai03
        キャンパス内の様子

 

私が所属していたのは、ASEAN保健開発研究所のMaster of Primary Health Care Management (MPHM)という1年間の修士課程です。公衆衛生の現場で行政職として働く人材育成というのがコンセプトで、前期は講義とフィールドワークを通して、疫学、生物統計学、環境衛生政策、社会学、プライマリーケアなど公衆衛生を幅広く学びます。朝9時から夕方4時までぎっしり講義が入っており、課題も多く出ます。後期は、それぞれ修士論文に集中し、半年でデータ収集から学会発表までを行います。修士を1年間で完成させることにコースの主眼が置かれているため、目まぐるしく日々が過ぎました。クラスメートは主にアジアからの医師、看護師、保健師などの医療従事者で、授業は全て英語で行われます。
 修士論文で私は、タイ中央部に位置するサムットソンクラン県のとある村で乳がん自己検診についての調査をしました。村では朝に畑仕事を終わらせた大人たちが、昼間から甘いものを食べつつ賭け事を楽しむなど、幸せそうに生活していました。乳がん自己検診について聞きたいと言うと、公の場で乳房を露わにし、大丈夫かどうか触ってくれとお願いされ、その場で触診をすることなどもありました。


 201709_Thai04201709_Thai05
          村の様子 田畑以外なにもありません

タイをはじめとする東南アジアでは、生活習慣の変化、平均寿命の伸長、生涯出生数の減少などにより、乳がんの罹患率が上昇しています。しかし、マンモグラフィーなどの乳がん検診は、補助金制度や人材育成、医療機関の整備が十分でなく、まだまだ一般的ではありません。多くの人が進行した状態で乳がんと診断されます。乳がん検診が普及している先進国に対して、検診にかける十分な国家予算がないタイでは、罹患率の上昇とともに年々乳がん死亡率も上昇しています。そのため、リスクも費用もかからない乳がん自己検診の普及に力を入れ、乳がん啓発を行っています。乳がんは、自分で発見できる唯一のがんで、月に一回自分で乳房を視診・触診することで、乳がんの早期発見につながるだけでなく、ブレストアウェアネス(日常から自分の乳房へ関心を持ち、自分の乳房の状態を知ることで乳がん、その他疾病から自分を守ろうという意識)にもつながると言われています。

村ではヘルスプロモーティング病院(旧プライマリーケアユニット)と呼ばれる診療所が第一次医療を担っており、村の保健室的な役割をしています。また、村人が健康ボランティアとして無償(現在は月に2,000円程度の交通費がでる)で健康指導から寝たきり高齢者のケア・見回りなどを行っており、医療従事者と村人の橋渡し役として活躍しています。健康ボランティアの存在によって、村人とヘルスプロモーティング病院の繋がりは強く、乳がんを例にとっても、多くの村人がヘルスプロモーティング病院で開かれる乳がん自己検診の勉強会に参加したり、健康ボランティアが村人の家を一軒一軒周って、自己検診方法の指導を行うなど、村全体の健康に対する集約力は高いように思われました。タイでは、日本が失いつつある地域の「絆」というものが脈絡と引き継がれており、限られた資源を有効活用しつつ、地域住民が主体的に健康活動に取り組んでいます。日本の優れた医療保険制度や医療技術、ホスピタリティは誇れるものではありますが、他国の医療福祉のあり方からも学ぶべきものが多くあると実感した一年でした。

201709_Thai06201709_Thai07

↑健康ボランティア研修会の様子  ↑村人はとても仲良く、なにかと集まり
                  おいしいものを一緒に楽しむのが大好き

 

このような海外での経験を活かしたいと思い、この度メディヴァに入社いたしました。社員としては、まだまだ右も左もわからない未熟者ですが、日本の優れた医療機器、医療技術を現地のニーズに合わせた新しい形として広めたり、対象国の持つ強みや魅力的な面を国内の医療現場に取り入れる仕事がしたいと思っています。精一杯努力してまいりますので、どうぞご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。