海外医療の現場から メディヴァ海外事業部ブログ

日本の医療機関での外国人対応

2017年07月06日(木)


 こんにちは、海外事業部の松永絵葉です。2020年の東京オリンピックも控え、今後、日本で医療機関を受診する外国人患者の数が増加することが予想されています。政府も、オリンピックに向けて医療機関における外国人対応の強化を図る公募事業などを実施していますが、多くの医療機関にとっては、費用と手間をかけてまで、外国人患者の受入れ体制を整備するほどではない、と考えられておられるのが実情ではないでしょうか。

 外国人患者の来院で、やはり大きな壁となるのは言語の問題だと思います。そこで、今回は負担なく利用できる多言語対応ツールと、外国人が理解しやすい日本語についてご紹介します。

 まず、日本における外国人数の推移を見てみましょう。2016年に、訪日外国人が初めて2,000万人を超えたことが話題になったのも記憶に新しいかと思います。確かに、日本政府観光局のデータ(下表)の通り、訪日外国人は、ここ数年で著しく増加しており、そのほとんどが観光客だということがわかります。

 政府は、2016年3月に観光先進国を目指す新たな観光ビジョン「明日の日本を支える観光ビジョン」を策定し、外国人観光客の増加に力を入れています。具体的には、訪日外国人旅行者を2020年までに4,000万人、2030年までに6,000万人に増やすことを目指しています。

 さらに、入国管理局のデータ(下表)からは、日本に在留する外国人が2012年以降増加し続けていることがわかります。2016年には240万人まで迫っています。

201707_訪日外国人推移201707_在留外国人推移

訪日外国人数推移:日本政府観光局
在留外国人推移::法務省入国管理局

 こうした状況の中、日本滞在中に怪我や病気で医療機関に来院する外国人が増加することはほぼ確実といえるでしょう。しかし、日常的に外国人が来院する医療機関は限られ、多くの医療機関では時々外国人が来院する程度と考えられます。そうした医療機関では、どういった準備ができるでしょうか。

●多言語対応ツール
 最近では、様々な言語に訳された問診票や診察を助ける資料など、豊富に提供されています。いざという時のために、こうした資料をストックしておくのも有効です。ここでは、その一部をご紹介いたします。

・厚生労働省「外国人向け多言語説明資料」
英語、中国語、ポルトガル語、スペイン語の各種問診票や制度の説明、手術・検査の同意書などが提供されています。http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000056789.html

・特定非営利活動法人AMDA国際医療情報センター「問診票等」
外国人患者が医療機関の窓口で戸惑わないように、一般的な外来診療の流れや診察のお願いの資料などが英語、スペイン語、ポルトガル語、中国語などで提供されています。また、旅行保険などの民間保険利用者に対する支払い済み証明書などもダウンロードできます。
http://amda-imic.com/modules/useful/index.php?content_id=1

<積極的な外国人患者受け入れを検討されている医療機関様向け>
・平成26年度経済産業省 病院のための外国人患者の受入参考書
医療を目的とした外国人患者を受け入れるための業務やリスク回避などについて説明されています。http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/26fy_sankousyo_all.pdf

・経済産業省ヘルスケア産業インバウンド情報
医療通訳の活用例や事業リスト、外国人患者の支払う医療費に関する検討、各種同意書(英語・中国語・ロシア語)等が提供されています。
http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/inbound.html

●英語よりも、やさしい日本語
 私は、以前日本語教師として働いていたことがあるのですが、その経験から、日本人が考える「外国人にとってわかりやすい日本語」と実際に外国人にとってわかりやすい日本語は、実は違うことがあるということを感じています。私たちは外国人を見ると、英語で話しかけがちですが、実は英語が全く理解できない外国人も多いのです。しかし、日本に在住している外国人は、日本語なら少し理解できるという方も多いです。そこで大事になるのが外国人にとってわかりやすい日本語「やさしい日本語」を使用するということです。

 「やさしい日本語」は、日本語初級レベルの外国人にとってわかりやすい日本語のことを言います。1995年1月の阪神・淡路大震災では、日本語も英語も十分に理解できず必要な情報を受け取ることができない外国人が多くいました。そこで、こうした方々にも、適切な情報を伝達するために考え出されたのが「やさしい日本語」です。近年では、「やさしい日本語」は、災害時のみならず、外国人への日常的な情報提供手段として研究され、行政情報や生活情報、毎日のニュース発信など、全国的に様々な分野で活用の場が広がっています。

<やさしい日本語で話す3つのポイント>

①「です」、「ます」などの丁寧体で話す。
一般的に外国人が日本語を学習するときには、活用のやさしさから、始めに「~です」、「~ます」を学習します。そのため、例えば「そこに すわる」ではなく、「そこに すわります」の方が伝わりやすいでしょう。

②短く切って、ゆっくり話す。
一文はできるだけ短くしましょう。また、話す際もゆっくり話しましょう。ただし、「こ・こ・に・か・き・ま・す」など、一音一音区切ると逆にわかりにくくなります。わかりやすく話すには、文節ごとに区切ると良いでしょう。文節とは、文章を意味のまとまりで区切った単位のことです。
例えば、「ここでまちます」は、「ここで  /  まちます」 と分けられます。
日本人だと、「ね」を入れるとわかりやすいでしょう。
「ここでね  / まちます

③尊敬語、丁寧語は使わない。
受け身文も難しいので、避けた方がよいでしょう。尊敬語、丁寧語は外国人には非常に難しいです。尊敬語、丁寧語を使用しないことは、日本語初級者の外国人にとって、失礼ではなく、親切です。

 また、「~てください」といった表現が伝わらない場合は、主語をつけることも一つの手だと思います。例えば、「ここで待ってください」という日本語は、「あなたは ここで まちます」といえばより簡単になります。

 外国人の母語で話ができれば一番良いですが、それが難しい場合、英語よりやさしい日本語の方が理解しやすいことがあることも、知っていただければと思います。

 医療の場に限らず、今後日本人が外国人と接する機会は増えることでしょう。そんなときに、日本人としてやさしい日本語でおもてなしができると良いですね。

参考文献
法務省入国管理局「平成28年末現在における在留外国人数について」
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri04_00065.html (2017/6/30参照)

日本政府観光局「国籍/目的別 訪日外客数(2004年~2016年)」
http://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/visitor_trends/ (2017/6/30参照)

国土交通省観光庁「明日の日本を支える観光ビジョン」http://www.mlit.go.jp/kankocho/topics01_000205.html (2017/6/30参照)

弘前大学人文学部社会言語学研究室 「やさしい日本語」
http://human.cc.hirosaki-u.ac.jp/kokugo/EJ3mokuji.htm (2017/7/4参照)

明海大学外国語学部日本語学科准教授 萩原 稚佳子 日本語検定「世界から見た日本語コミュニケーション(16)「やさしい日本語ってどんな日本語?」http://www.nihongokentei.jp/amuse/essay/w_16.html (2017/7/4参照)