iPhone、iPadを活用した在宅医療システムの運用とその取り組み(前編)

2011.09.08[ニュースリリース]

「iPhone、iPadを活用した在宅医療システムの運用とその取り組み
 ―スマートフォンとクラウド型地域連携カルテで切り拓く未来型地域医療連携―」

                     桜新町アーバンクリニック 院長 遠矢純一郎

昨今、ネットワークへの接続機能、パソコン並みのデータ処理機能を併せ持つ多機能携帯である「スマートフォン」が一般に浸透してきている。これらの携帯端末や既にあるインターネット上のさまざまなサービスは、在宅医療の課題を安価に解決する可能性を秘めている。そこで筆者らはスマートフォンの先駆けである「iPhone(アイフォーン)」を利用して既存のアプリやWebサービスを在宅医療に応用し、情報共有や業務の効率化を図っている。また在宅医療にはかかせない地域連携先との患者情報共有において、クラウド型地域連携システム「EIR(エイル)」を開発した。その開発ポリシーや機能、実際の運用について2回に分けて報告する。

 1.急増する在宅医療のニーズ

説明するまでもなく、我が国では未曾有の高齢化社会を迎えている。15年後には3人に1人が65歳以上という状況である。となると当然ながら医療費も高騰しており、医療費全体で35兆円を超えている。これは5年前に比べると12%も増加しており今後高齢化がますます進むにつれさらに増大していくことだろう。一方医療の進歩に伴い疾病の割合も変化しており、がんや慢性疾患の割合が増えている。死亡場所に関する統計を見ると、昭和の始めのころは8割以上の方が自宅で看取られていたのに対し、現在は9割近い方が病院で亡くなっている。一方、最期のときをどこで過ごしたいかというアンケート調査では、やはりご自宅で家族に看取ってもらいたいという希望が圧倒的に多い。この現実と希望のギャップを埋める手段として在宅医療は期待されていると筆者らは考えている。

 2000年に介護保険法が制定され2006年度診療報酬改定で、厚生労働省は”在宅医療推進”の切り札として、新類型となる「在宅療養支援診療所」を創設した。それ以後利用者は急増しており、ここ数年で在宅訪問診療を受ける患者数は20万人を超えた。そもそも在宅医療とは外来通院が困難で1~2週間毎定期的に訪問して病状管理が必要な患者に往診する。24時間365日対応するという手厚い診療体制であるが、1か月の費用でみると在宅医療における医療費は入院費用の約3分の1程度で済む。医療費抑制の面からみても、在宅医療のニーズはますます加速していくだろう。

2.在宅医療の特殊性

このように今後日本の医療制度のなかで大きな役割を担うであろう在宅医療であるが、外来や入院といった既存の医療体制とは異なる特殊性をもっている。
   ① アウェイの医療
   ② 24時間365日対応
   ③ 多職種多事業所との連携

在宅医療というからには患者宅や高齢者向け施設などで訪問診療を実施する。当然そこには検査機器などの医療設備はなく、在宅医は状況を判断し適切な診断を施さなくてはならない。そのためヒトやモノの動き方や管理方法を考えておく必要がある。また、在宅医は24時間365日万全な態勢で患者の急変に備えておかなくてはならず、いつでもどこでも対応できるような仕組みが不可欠である。筆者らは万一の態勢を支える仕組みとして、オンコールや臨時出動を複数の医師でカバーし合うグループ診療体制を構築している。そして日々の在宅訪問診療において欠かせないのが多職種多事業所との連携である。患者のご自宅をひとつの病室として、さまざまな職種(看護師、薬剤師、ケアマネージャー、OT、PT、ヘルパーなど)が在宅医療を支えている。このグループ診療における医師間の情報共有や、多職種多事業所間の情報共有と地域連携は、安全で質の高い在宅医療を実践する上で最も重要である。
これら重要な3つの要素こそが在宅医療の特殊性といえるだろう。

3.スマートフォン、クラウドサービスと在宅医療

つまり、在宅医療においては関係者がいつでもどこでも必要な情報にアクセスできるということが必須である。そしてそれは随時更新され生活状況を含めたケア(介護)とキュア(治療)に必要な情報でなくてはならない。かつては病院や診療所にあるカルテに全ての情報があり、それらを参照していた。しかしそれではさすがにいつでもどこでもカルテを持ち運ぶというわけにはいかない。そこで筆者らは昨今のスマートフォン(iPhone)を活用することで、いつでもどこでも早く、かつ安全安価に情報にアクセスできる仕組みをつくれないものかと検討を重ねた。

 当院の電子カルテは3G回線を経由してiPhoneで閲覧可能であるので、日々の診療録や処方内容、検査結果などをいつでもどこでも参照できる。ただ日々の診療録は時として緊急時の情報提供などには不向きである。そこで筆者らは個々の患者サマリーを作成し、それをクラウド上のオンラインストレージサービス(たとえばDropbox)においておくことで、院内の医師や看護師はいつでもiPhoneでサマリー情報を参照出来るようにしている。緊急時にはこれを利用してiPhoneだけで診療情報提供書を作成することが出来る。作成した情報は、メールに添付し、interfax というネットサービスを利用することで、相手先の病院にiPhoneから直接fax送信することが可能である。iPhoneは画像や動画の処理にも長けているので、皮膚患部を写真撮影したり、処置方法に関するビデオ動画を作成し共有することで、言葉では伝えにくいニュアンスを客観的に提供することが出来る。保険証や処方箋などの紙情報も、その場でiPhoneで撮影してメール添付したものを薬局などにfax送信すると言った使い方も頻用している。患者アドレス帳や往診スケジュールなどの業務情報も、Googleなどのクラウドサービスを使うことで院内スタッフ全員のiPhoneを一元的に同期管理できるのもスマートフォンの大きなメリットのひとつであると言えよう。

ひとりひとりがいちいち住所録やスケジュールを入力する必要がなくなり、常に最新の情報に自動的に更新されていく。また話題になっている電子書籍もスマートフォンであれば読める。医学書や医学文献などをインターネットから取り込んでおけば、重くてかさばる書籍を持ち歩くことなく現場でいつでも参照することができる。このようにスマートフォンはクラウドサービスと組み合わせてこそ、その真価を発揮できる。単体ではちょっと賢い携帯電話程度でしかないが、クラウドにある情報やアプリケーションをスマートフォン上に展開することで、パソコン以上の便利さと快適さを現場に持ち込めるのである。そしてこの真価こそが在宅医療に最も適したデバイスといえる根拠である。

続きはこちら

桜新町アーバンクリニックHP