No.013(2007/04/25)

2007.04.25





メディヴァ・コラム 「公立病院の機能と適正繰入金」

公立病院は各地域の医療において重要な役割を果たしているのと同時に、地方財政圧迫の要因ともなっている。「公立病院の9割以上が赤字」と言われながら、その赤字は一般会計からの繰入金によって補填されているのだ。

多くの公立病院では、役割の有用性が財政上の負担を上回るものとされていた。設立当初は周りに民間病院も少なく、地方財政もさほど厳しい状態ではなかったためだ。しかし近年多くの自治体では公立病院の位置づけを見直しつつあり、経営改革に着手し始めた。

 公立病院の経営を見直す場合、大きく2つの課題が存在する。

  ● 「公的使命」
     公立病院の多くは、救急や小児科等、採算が取りにくい医療を実施している。
     これらを止めれば、経営状態が改善するのは分かっているが、地域医療にお
     ける役割も縮小することになる。

  ● 「生産性」
     一般的に公立病院のほうが民間病院より生産性が低く、生産性を改善すれば
     経営改善に結びつくと考えられる。但し、その改善度合いを定義するのは難しい。

当社では公立病院の経営評価と経営改善のプログラムを実施している。そこで今回は、具体的な事例を用いて上記の課題と解き方について説明したい。

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           【 事例 : A病院 】  
    病院と3つの老人ホームによって構成される複合病院   
 
    ある地方都市によって運営され、主に高齢者を対象としている   
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A病院は「公的使命」として、医療・福祉一体型による認知症対策と研究機関で、診断・治療、施設サービス、家族支援、研修などを実施している。90年ほど前に財団法人として創設し、養老、福祉、救護事業を開始、1944年に市が引き継いだという歴史のある施設である。その後、救護施設の開設・廃止などの変遷を経て、現在の事業形態となっている。

現在の歳入は27億円に対し、収支差が改善傾向にはあるが、病院が約7億、3つのホームが約5億、合計約12億円である。当社では、同病院の経営改善可能性を把握するために、下記の3つを分析した。

 ● 1)公的使命の定義、定量化:
そもそもA病院が果たしている「公的使命」は何か?またそれは意味があるのか?それに掛かっている金額は幾らか?

 ● 2)生産性の定義、定量化:
他の公的病院、民間病院と比べて非効率は存在するのか?その金額は幾らか?

 ● 3)適正収支差の定義、定量化:
公的使命と地域でニーズがあるサービスを効率的に提供した場合、いくらの収支差となるか?

この3つを、順を追って見ていきたい。

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1)公的使命の定義、定量化:
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A病院の場合、「公的使命」は
  ・ 「認知症」の研究、治療
  ・ 虐待を受けている高齢者等のための「措置入所」

マクロ的に調べるとA病院が立地する市は全国や県内と比べ、認知症対応可能施設が不足していることが分かった。認知症患者1人あたりの施設定員数が全国では0.26、県では0.21に対し、市は0.16と不足している。また、付属病院の入院数は認知症の方が74.1%であった。上記により、「公的使命」を「認知症」対応に設定することは適切であると思われた。また、市内の措置入院の約65%は同施設が受けているため、「措置入所」に関しても「公的使命」として適切と思われる。原価計算をした結果、上記の2つの使命によって発生している収支差は約5億円であることが分かった。

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2)生産性の定義、定量化:
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A病院の費用項目で、特に大きい人件費と委託費を公的病院・施設の平均、また民間病院・施設と比べた場合、どこに非効率が発生するかを調べてみた。その結果、売上げと費用と両方で非効率が発生していることが分かった。特に付属病院に関しては、入院単価、病床稼働率も低く、外来患者が少ない。一方、費用に関しては、医師以外の職種(看護師、事務スタッフ等)の人件費が高いことと、外部委託が進んでいるにも関わらず間接人員が減っていないことが把握できた。非効率によって発生している収支差は、公的病院・施設との差で約4.7億円、民間病院・施設との差が1.5億円で、合計約6.2億円となる。
メディヴァ メールマガジン No.013

 上記の2つで12億円の収支差の大部分は説明がついたが、この過程で各科目の収支を見てみると、長期入院、外来における整形外科、外科、リハビリ、皮膚科、歯科、眼科、耳鼻科等「公的使命」に直接関係がなく、最も効率の良い民間病院並みに効率化しても尚赤字になる科目も発生することが分かった。この赤字は、科目は存在しているが十分な患者さんが来ていないために発生しているものである。

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3)適正収支差の定義、定量化:
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発想を変えてみて、まず十分な患者数が確保出来ていない機能を削減した場合、約3.7億円の収支改善が可能となる。残った科目、機能で運営し、民間病院・施設並みに効率化をはかると約8億円の改善がはかれる。この結果、現在のマイナス収支はほぼ解消することが判明した。

 生産性を向上させるためには、現在の事業運営体制のままでは困難であるため、公設民営方式として指定管理者制度やPFI制度の活用、地方独立行政法人制度の活用とともに民間委譲・売却も考えられる。特に指定管理者制度は、平成15年度からの新しい業務委託手法で、公の施設の管理主体をNPOや民間事業者に拡げることで、サービス向上とコスト削減をはかっている。主体が民間に移ることで費用削減が見込めつつ、公的使命も果たすよう設定することもできる。

A病院に関する評価報告は市に提出され、外部委員からなる「あり方・経営形態検討委員会」において、今後果たすべき役割を含めて検討された。

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上記非常に簡単であるが、公立病院・施設の経営評価の考え方について書かせて頂いた。科目の削減、給与水準の引き下げ等、相当ドラスティックな解決策を含んでいるが、まずは定量化し、オープンに話をすることが大事なのではないだろうか。結果的にどの程度ドラスティックな解決を図るかは、各自治体の方針によっても異なるが、具体的な数字を提示しないことには具体的な目標や計画が策定出来ず、納税者の納得も得られないのではないのだろうか。

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