MEDIVAの在宅・地域包括ケアコンサルティングブログ

企業コンサルティングブログ

在宅医療の現状を可視化する―緊急往診が多い患者像に関する分析結果

2016年11月 2日

在宅医療の現状を可視化する―緊急往診が多い患者像に関する分析結果―

企業・行政コンサルティングチーム 吉村和也

 

 平成287月、厚生労働省が事務局を務める全国在宅医療会議が開催されました(http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-isei.html?tid=364341)。この検討会は、日本の喫緊の課題である地域医療構想の実現と地域包括ケアシステムの構築の成否の鍵を握る在宅医療の推進方策を議論する大規模な会議です。こうした会議が開催されるということは、国も在宅医療の充実に向けて本腰を入れ始めたということだと思います。

一方、在宅医療については、病院と比較して実施されてきた調査や研究はまだ少なく、その実態が十分に明らかになっていないという課題があります。

メディヴァでは桜新町アーバンクリニックのデータなどを用いて在宅医療の見える化にも取り組んでいます。今回は、各地で在宅医療推進のボトルネックの1つになっている医師の確保に関する問題に対して、「緊急往診」に着目して分析した結果の一部を紹介します。

※本内容は、「第18回日本在宅医学会大会」および「在宅ケアを支える診療所・市民全国ネットワーク第22回全国の集いin鹿児島 2016」で報告した内容を改変したものです。発表内容の詳細を希望される方は「お問い合わせhttps://mediva.co.jp/contact/」までご連絡ください。


 

 

24時間対応が在宅医療普及の課題

 2025年まで後期高齢者が増え続けることは周知の事実ですが、在宅医療を必要とする85歳以上人口が2025年を超えてその先まで急増し続けることは意外に知られていません(図1)。

 

(図1)日本の高齢化の現状


吉村さん 1枚目.pngのサムネール画像のサムネール画像

厚生労働省および国立社会保障・人口問題研究所のデータより作成

 

 各地域で在宅医療の需要を受けきれるよう、現在自治体や地区医師会は在宅医療を手掛ける診療所・医師を増やす取組に励んでいます。メディヴァが支援をしていた茨城県筑西市の調査では、地区医師会会員のうち57%が在宅医療への取組に消極的でした。その理由として多いのが、コールや往診を24時間対応する人員を確保して体制の整えることができない、ということでした(図2)。また、実際に在宅医療に取り組んでいる在宅療養支援診療所(在支診)でも、24時間の電話対応や24時間往診対応に対して負担を感じているのが現状です(図3)。在宅医療では患者からの連絡がいつ来るか分からない状況が続くため、実際にコールや往診などが発生しなくても、常にそれに備えることで精神的な負担が圧し掛かってくるのが現状です。


 

 

(図2)在宅医療に取り組むうえでの課題(筑西市)

吉村さん 2枚目.png

筑西市資料より作成

 

(図3)在支診・在支病における24時間対応の負担度



吉村さん 3枚目.png

メディヴァ調査

 


 

往診は意外に少ない?(図4)

 24時間対応を聞くと誰もが「夜間対応」を頭に浮かべます。しかし、実は定期訪問以外の往診の9割は日中(午前9時~午後6時)に発生しています。また6ヵ月の調査期間中、およそ半数の患者では往診は1度も発生していませんでした。往診に行った患者もその頻度は決して高くなく、往診に行く患者のみを集計しても、およそ50人・日に1度に留まります。診療所が抱える在宅患者のうち約半数でのみ往診が発生するため、診療所全体ではおよそ1回/100人・日のみです。計算上、もし50人の患者を抱えている場合に2日に1度、100人の場合は11名往診に行く数字です。さらに夜間往診にのみ着目すると、1回/420人・日となり、100人の在宅患者を抱える診療所で4日に1度という頻度になります。往診体制の観点に限定すると、この数字は工夫することで十分に対応可能な範囲であると考えられます。

 

(図4)往診の発生状況


吉村さん 4枚目.png

メディヴァ調査

 


 

往診が多い患者特性は時間帯で異なる(図5

 往診が多い患者の共通点にはどのようなものあるでしょうか?今回の調査では、年齢や要介護度、同居家族の有無、施設か居宅か等の患者属性との関連は認められませんでした。前記のほか調査期間中の入院や死亡といった重度な患者の影響を調整してもなお、「がん末期」の患者で往診が多いことが明らかになりました。

 また、往診が発生する時間帯にも患者特性が見えてきました。日中では肺炎や発熱等のトラブルを伴う患者に往診が多いのに対して、夜間に往診が多いのは経鼻経管栄養や慢性疼痛管理をしている患者でした。これは日中と夜間で往診発生に寄与する要因が異なることを示唆する結果です。

 

(図5)往診頻度に関連する患者特性
吉村さん 5枚目.png

メディヴァ調査

 

【今後の調査の方向性】

 今回の調査結果には現場の人が感じる違和感があります。それは、実際に往診に行くのはコールがあった患者のうち一部であり、電話のみで対応するケースや、訪問看護等によって対応されるケースが多くあるということです。24時間対応の実態を明らかにするという観点を踏まえると、こうした側面も総合して分析していくことが必要不可欠です。

 本調査内容は、「第22回全国の集いin鹿児島2016」においてフォローアップ発表に推薦いただいたため、来年度の全国大会にてさらに洗練されたデータを示していきたいと考えています。

高齢者施設における看取りの現状と課題

2016年8月23日

 

企業行政チーム医師兼コンサルタントの神野です。

 

 20世紀に発展してきた病院中心の「治す医療」から、地域全体で「治し支える医療」へのパラダイムシフトの過渡期に入り、現在各自治体において地域包括ケアシステムの構築が進められています。高齢者の生活を支える「場所」をみてみると、その選択肢は広がってきており、本人の医療・介護依存度や自宅介護力などから老人ホームや介護保険施設といった施設が選択されています。「生活」は一見私たちが空気を吸うように意識しない日常的行為ですが、実は複雑なスキルの複合体であり、認知症や障がいを持つ高齢者やその家族にとっても、誰かの支援なしでは継続は困難です。上記のような高齢者施設は在宅療養に係る多職種が生活を支えることで、必要な医療や介護が提供される場であり、そして孤独を感じがちな高齢者のコミュニティの場にもなっています。今回は、この高齢者施設における在宅医療、特に看取りについて考えてみたいと思います。

 

高齢者施設での看取りは急増している

人口動態調査結果の直近5年間(2010年~2014年)のデータを紐解いてみると、死亡場所においてある特徴が見られます。

画像A.png


出典:厚労省「介護サービス施設・事業所調査」「介護給付費実態調査」「社会福祉施設等調査」「サービス付き高齢者向け住宅提供システム」





なぜ施設看取りは増えているのか


施設での看取り数が増えている要因として、施設、医療との連携、家族の3つの軸から考えてみます。まず、施設軸ですが、近年老人ホームの定員数は右肩上がりで増加しています。


画像Ba.png

画像B.png





老人ホームが急増している背景として、介護保険制度の創設で民間事業者の参入が促進されたことや、その後の制度改正で定員要件の廃止や提供できるサービスが増加したことがあげられます。また家族構成の変化や自宅介護力不足といった社会的ニーズも増大しており、比較的安価なものから高級ホテルのような老人ホームまで、入居希望者が選択できる幅が広がっていることも一要因でしょう。

 

では、老人ホームの定員数増加と看取りの増加にはどのような相関関係があるのでしょうか。既に上記でお示ししたように、絶対数として施設看取り数は増えています。この背景には、入居する高齢者数自体の増加はもちろん、施設スタッフ間のケア文化として看取りに抵抗がなくなってきたことなど様々考えられるのですが、中でも在宅医の充実と協力体制が整ってきた、という点は重要な点です。次にこの点について考えたいと思います。

 

在宅療養支援診療所の届出数をみると近年増加傾向にあり、2014年時点で1.4万件、全診療所件数の約14%を占めています。


画像C.png


出典:中医協資料 在宅医療(その1)(平成27218日)

訪問診療患者数においては、大きな増加は施設在宅患者であることがわかります。


画像D.png

 

出典:社会医療診療行為別調査

施設入居患者への訪問診療のニーズは、高齢化が進む中で今後も増大することが容易に予測されます。またこのことは、本人・家族の「施設での最期」といったニーズも同時に増えていくと考えられます。長期療養生活の後に、入居者やその家族が「最期は長年暮らした施設で」と望んだ時に、かかりつけ在宅医が病院へ救急搬送せずにいつでもお看取りができる体制を確保してきたことは、はじめに示した施設看取り数の増加に表れています。ただし、施設での看取りは、前提として在宅医と入居者・家族との信頼関係がなくてはなりません。弊社支援先の医療機関の調査では、本人が終末期に入る前後から家族と面談を頻回に行っているほど、施設での看取りにつながることが示されています。これまでのような病院で亡くなることが当たり前だった時代から、生活の場で自然に亡くなることが一つの選択肢となるには、終末期の不可逆的な身体の変化や、侵襲的な治療はかえって本人に苦痛を与えること、さらに施設においても十分なケアが提供できることなど、在宅医と家族間でしっかりと共有しておかなければならないわけです。

 

では、家族側からみて、なぜ施設看取りを選択するようになっているのでしょうか。近年「自然な形で亡くなる」ことに対する市民の理解が深まりつつあるように思います。特に、認知症や老衰でゆっくりと弱っていく方の場合、その時間経過の中で家族が十分に状態を受け止めることができ、病院搬送はかえって本人に苦痛を与えてしまうだろう、ということに対する理解が広がってきています。しかし、施設看取りを可能にする要因は他にもあります。

 

2003年と2008年に行われた「終末期医療に関する調査」では下記のような結果がでています。まず、終末期に入ってから狭義の「自宅」での療養に関しては、市民の6割以上が「実現困難」と考えていることがわかります。これは両年の調査でもほぼ同じ結果となっています。


 画像E.png

出典:厚生労働省「終末期のあり方に関する調査」結果について(201012月)


療養困難な理由としては、急変時に本人や家族が不安を抱えてしまうことや、介護者への負担、そしてかかりつけ在宅医の不在が主なものとしてあげられています。

画像F.png




出典:同上


「終末期はできるだけ自然に、苦痛のないように」、と考えていても目の前の本人に起こる食欲低下や意識低下などに対して、自分や家族しかいない自宅だと対応することが難しい、不安であると感じる方が多いのは想像に難くありません。一方、看護師や介護士が常駐している高齢者施設においては、これらに対してほぼ対応可能です。また、長年本人をケアしてくれた施設スタッフとの信頼関係も構築されるため、家族は最期の段階に入ったときに、家族しかできないケアに集中することができます。実際の現場でも、終末期の話をすると「最期はホームがいいです」と本人、家族共に望まれるケースはよくあります。このように、施設で最期を迎えることは、本人だけではなく家族の身体的・精神的負担が緩和されることも、看取り場所として選択される要因になっているのではないでしょうか。

 

今後の課題と展望

日本はその歴史的背景から病院死が多く、施設での看取りは諸外国と比較するとまだ3分の1にも満たないという状況です。



画像G.png

画像H.png


 

出典:資料:Australian Institute of Health and Welfare (2016); Broad et al (2013); Office for National Statistics (2015); 厚労省 (2015) 人口動態調査

地域包括ケアシステムは、入院医療による医療費の抑制という、一見超高齢化社会の財政問題の解決策としての側面が強調されがちです。しかし、このシステムには保健・医療・福祉を統合し、個々人の「生活の場」において必要な支援を提供していく体制を構築する、というパラダイムシフトの意味合いも込められています。国民の半数以上は住み慣れた場所での最期を望んでいます。高齢者施設数や施設看取り数が急増しているとはいえ、上記数値に示されるようにまだまだ取り組みとしては不十分です。最後に、施設における看取りの課題に関して考えてみたいと思います。

 

一つ目の課題として、施設スタッフ(看護師、介護士)の医療行為に対する制約があげられます。終末期では、点滴や場合によっては医療用麻薬を使用した緩和ケアを提供することが必要な場面があります。現時点で、厚労省は施設コメディカルによる点滴や医療用麻薬の使用禁止を明言してはいません。しかし、施設側の規則により、医師の指示の元でも上記のような行為ができないことが少なくありません。また、同じ法人下でも、各施設において何ができるか、できないかにおいて大きなバラツキがみられます。そうすると、在宅医だけでは十分に支えることができず、結果として不安を抱える本人や家族の希望により病院搬送になってしまいます。終末期だけではなく、肺炎や一時的な脱水等の治療においても同じことが言えます。療養病床の減少や病床機能再編が進む中、看護師や介護士によるケアを24時間提供している施設は、安心を求める患者さんや家族のために、「生活の場」においても必要な医療を受けられるように整備をしていかなくてはなりません。

 

二つ目に、在宅医と施設側との情報共有が制限されていることがあげられます。多くの場合、医療機関と老人ホーム等の施設は別法人で運営されているため、介護記録や診療カルテなどの情報を、双方が必要なときに得ることは容易ではありません。病院であれば、多職種が共通の電子カルテへの記載や閲覧を通じて本人や家族の状態を把握することが可能であり、居宅においてもICT等が普及してきているため、密な情報共有と連携が進んできています。しかし、施設においては、まず介護系の情報が電子化されていなかったり、在宅医が使用しているクラウドの電子カルテを閲覧する、もしくは記録するといったことが相互の抵抗も強くなかなか進んでいません。高齢者は病気という医学的側面だけではなく、日々の生活における変化や、家族との関わりなど、あらゆる方面から多面的に把握することが必要です。特に、状態が変化しているときには、そばにいる看護師や介護士からの情報がなければ適切な判断ができないことがあります。したがって、本人の利益となる情報共有の方法に関しては、医療機関と施設側とにおいて、しっかりと議論をしていくことが必要でしょう。

 

三つ目の課題として、施設在宅医療の質が十分に見えておらず、評価されにくいという点です。2014年の診療報酬改訂で、特定施設への管理料は4分の1まで引き下げられました。2016年には、厚労省が「別に定める状態の患者」以外の患者に対する管理料が引き下げられています。そもそも、「居宅」と「施設」において報酬設定に大きな差があります。これは、特定施設での診療が同一建物内で効率よく行われていることが一要因です。しかし、居宅においても施設においても、本来は一人一人の患者に対して行われる診療においては大きな変わりはなく、場合によっては施設での医療が濃厚になることもあります。看護師を配置している施設を選択する入居者や家族は、いざという時には病院に行かずとも在宅医との連携において、そこで必要な医療が提供されることを期待しています。認知症者や虚弱高齢者にとって「生活の場」で治療が受けられ、入院によるリロケーションダメージが回避できることは本人にとって大きなメリットになり、同時に入院医療費の抑制にもつながります。これは施設と在宅医間で信頼関係と連携が取れているからこそ可能となるのですが、まだ施設在宅医療領域では十分なエビデンスが出ておらず、そのため評価もされていません。今後施設在宅医療が、入居患者に対してどのような価値を提供しているのかを具体的に明示していかなくてはならないでしょう。

 

本稿では、今後も社会的ニーズが増大する高齢者施設での在宅医療を、看取りという切り口から考えてみました。そこでは、一人ひとりに適切なケアを提供できるよう、施設側と医療機関側が相互に歩み寄りながら取り組まなければならないことをいくつか指摘しました。弊社パートナーである医療法人社団プラタナスも施設在宅医療を提供しており、引き続き上記課題に取り組んでいきたいと考えています。

 

タグ:在宅医療 施設在宅 看取り 地域包括ケアシステム

 

禁煙外来の現状の理解と対策についての検討

2016年6月10日

企業行政チーム医師兼コンサルタントの澤井です。

 

日本人の死因の第1位は悪性新生物(がん)であり、死因の30%を占めています。がん死亡者は今後も増加することが推計されており、現在の死亡者数は36万人ですが、2040年には50万人に達するといわれています。在宅診療においても、特に看取りの必要ながん患者数が増加することが示唆され、医療インフラの整備が急務です。

ところで医療インフラの整備はもちろんですが、健康寿命をのばす、特にがんの発症率を下げることにも注力する必要があり、その代表例が禁煙です。禁煙によるがん予防効果は明白ですが、ここ数年の喫煙率は横ばいであり、禁煙外来は十分に機能していません。今回は禁煙外来の現状とその対策についてご紹介させていただきます。

 

喫煙とがんの関係性

喫煙はがんの発症、死亡ともに関連があり、禁煙によりリスクを下げることができる。

実際に喫煙はがんの罹患や死亡にどれほどの影響を及ぼしているのでしょうか。国内のがん死亡に対する喫煙の人口寄与危険割合は全がんに対して、男性では39%、女性では5%といわれています1)。また、がん罹患における人口寄与危険割合は男性29.4%、女性で2.8%です2)。これは喫煙者が0になると、男性のがん死亡は39%、がん罹患は29.4%減少すると解釈することができます。男女比があるのは、後述するように男性と女性の喫煙率に乖離があるためと推察できます。

禁煙によりこれらのがんの発症リスクを下げることは可能であり、特に口腔がん、食道がん、肺癌、喉頭がん、膀胱がん、子宮頸がんでは、禁煙により発症リスクが下がるといわれています。さらに子宮頸がんや喉頭がんは禁煙後急速にリスクが低くなり、子宮頸がんは非喫煙者のレベルまでリスクが下がるといわれています。また、これらがんのほとんどは禁煙の期間が長くなるほど発症リスクは低下するといわれています3)。したがって、喫煙はがんの発症、死亡ともに関連があり、禁煙をすることでそのリスクを減らすことができるといえます。

 

日本人の喫煙率の推移

ここ数年の喫煙率は男性30%台、女性8%台でほぼ横ばいで推移。

厚生労働省の統計によると、平成25年時点で、男性32.2%、女性8.2%の喫煙率でした。平成元年は男性55.3%、女性9.4%でしたので、特に男性の喫煙率は大きく減少していることが分かります。平成元年以前から続く、たばこ税増税、国民のヘルスリテラシーの向上が喫煙率の減少に貢献しているものと思われます。しかし、平成18年から禁煙外来が保険適応になり、平成20年より、禁煙補助薬であるバレニクリン(チャンピックス®)が保険適応になっているにも関わらず、平成22年以降は、男性は30%第前半、女性は8%台のまま、ほぼ横ばいの状態が続いています4)。

がぞう1.png

禁煙外来の現状

禁煙外来推定受診率は1%を下回る。

禁煙外来が保険適応になったにも関わらず、喫煙率がさがらないのはなぜでしょうか。平成21年度の厚生労働省の実態調査では、治療終了時の禁煙率は、ニコチンパッチで76.9%、バレニクリンで79.1%であり、治療修了9か月後ではそれぞれ49.2%50.1%でした5)。治療修了9か月後の禁煙率は決して優秀な成績ではありませんが、喫煙率に貢献できないほどの成績ではありません。そこで、禁煙外来の受診者数が低く喫煙率低下に貢献できていないことが示唆されます。

この仮説を検証するために、以下のような禁煙外来の受診率の推定を行いました。

    JT の2008年「全国たばこ喫煙者率調査」での推計喫煙人口は2,680万人6)

    中医協の診療報酬改定結果検証に係る特別調査(平成 21 年度調査) ニコチン依存症管理料算定保険医療機関における禁煙成功率の実態調査報告書より

有効回収率47.5%の調査にて、平成2061日~731日の 2か月間に「ニコチン依存症管理料」の算定を開始した全患者数は3,471名。

    上記実態調査報告書で調査したのは施設基準届出を行っている6,800施設の内、1,500施設。

    ②、③より、1年間のニコチン依存症管理料の推定算定者は3,471÷2/12÷47.5/100÷1,500/6,800=198,760.

    ①、④より、平成20年の禁煙外来(保険適応)受診率は198,760/26,000,000×100=0.764(%)

したがって、禁煙外来が喫煙率低下に貢献していない原因は、喫煙者の受診率の低さが原因であると考えられます。

 

禁煙外来の課題と提案

喫煙率減少のためには、禁煙外来へのアクセス向上への工夫が必要

仕事中の禁煙外来受診時間の設置や、健康保険組合の協力のもと、費用負担の変わらない自由診療での禁煙外来を設置してはどうか

喫煙率を減らすためには、禁煙外来の受診率を向上させることが必要です。禁煙外来の受診率が低い原因として、病院受診の敷居が高いことが挙げられます。喫煙者の多くは日中仕事があり、よっぽどの事情がない限り、仕事を休んで禁煙外来を受診するということには抵抗を感じます。さらに禁煙外来は3か月間で5回の受診が必要であり、より通院に対する抵抗が高くなります。事実、平成21年の厚生労働省調査では、5回すべて通院できた割合は全受診者のわずか35.5%でした5)

禁煙外来へのアクセス向上により、受診率、成功率ともに改善した、大変興味深い取り組みがあります。平成21年、日立製作所では企業内診療所に禁煙外来を設置しました。2600人、喫煙率32%の就業者のための企業内診療所に禁煙外来を設置し、2年間調査したところ、受診者は42人(喫煙者の5%)、禁煙外来全5回達成は34人(84%5回通院達成者の禁煙成功率は88.2%であり、企業内診療所での禁煙外来は受診率、成功率共に従来の報告よりも良い結果であることがわかります7。以上より、医療アクセスを向上させるためのスキーム構築が禁煙外来受診率の向上の課題と言えます。

この課題解決のために二つの提案があります。

 

    社内禁煙宣言者に対して、業務時間内の外来受診時間を設定

    費用負担を変えないまま(可能なら0)にして、自由診療を利用したアクセスのしやすい禁煙外来を設定

 

前述のように、禁煙外来を受診するためには業務から抜ける必要があり、禁煙外来の敷居を高くしています。これを「仕事」の中に組み込むことができれば、受診しやすくなります。その為には、企業や健保の協力が必要であり、禁煙の推奨や、社員が禁煙を「宣言」して周囲の協力を得るといった環境整備が必要です。会社全体として「禁煙を応援する」という環境が求められます。

さらに、受診の回数やタイミング、受診形態について柔軟に対応することのできる協力的な医療機関が存在すれば、継続受診への敷居も低くなります。残念ながら、現在の保険診療での禁煙外来では定められた「型」があり、柔軟性や融通性はありません。自由診療形態の禁煙外来とすることは一つの打開策で、患者さんに合わせた柔軟性のある禁煙外来を提供することができます。自由診療により患者負担が増えてしまっては、受診率増加は望めませんが、この負担分の7割(結果としては保険診療分と同額)を健康保険組合に負担していただければ、従来の禁煙外来より受診率も成功率も高い、かつアクセスもしやすい禁煙外来も可能であると考えています(もちろん全額負担していただければ、より受診率の向上が望めます)。

私たちは、パートナー医療機関の協力のもと、患者さんの目線で禁煙外来や健診のあり方を模索し、現在の制度でも可能な「アクセスのしやすい」禁煙外来のスキーム作成に取り組んでおります。健康経営の一環として、社内禁煙に取り組みたい企業、健康保険組合のご担当者様がいらっしゃいましたら、是非お声掛け下されば幸甚です。

 

参考資料

1)     Journal of Epidemiology, 18: 251-264, 2008

2)     JPHC Study 喫煙のがん全体の罹患に与える影響の大きさについて(詳細版)

3)     平成25年国民医療費の概況(厚生労働省)

4)     厚生労働省の最新たばこ情報 成人喫煙率(厚生労働省国民健康栄養調査)

5)     診療報酬改定結果検証に係る特別調査(平成21年度調査)ニコチン依存症管理料算定保険医療機関における禁煙成功率の実態調査 報告書

6)     JT 2008年「全国たばこ喫煙者率調査」https://www.jti.co.jp/investors/press_releases/News/2008/10/20081023_01.html

7)     企業内診療所における禁煙外来の有用性について 吉野友祐、田中理恵子ほか 日本禁煙学会雑誌 第7巻第2号 2012427

平成28年度診療報酬改定 在宅医療編

2016年2月28日

企業・行政コンサルティングチーム 荒木庸輔


 平成28年度診療報酬改定の答申が発表されました。在宅医療においては、外来応需の義務を負わない在宅医療専門の診療所の制度化や、患者の重症度、訪問回数に応じた医学管理料のさらなる細分化などが図られました。

 今回は診療報酬改定の概要について投稿させていただきます。


1.  重症度や訪問回数に応じて医学管理料を細分化。居宅でも軽症者の多い医療機関は減収に

 

 今回の改定のポイントとしてはまず、これまで画一的だった医学管理料が、患者の居住場所だけでなく重症度や訪問回数によっても細分化されたことが挙げられます。


 特定施設入居時等医学総合管理料は施設入居時等医学総合管理料へ改名され、特定施設入居者と患者像が同じという理由から、新たにグループホームやサービス付高齢者向け住宅、特定施設以外の有料老人ホームが対象に追加されました。さらに「同一建物居住者」は「単一建物診療患者の人数」となり、これまでの「同一日に訪問診療を行う人数」から「単一建物内で医学管理を行っている人数*」へと定義が見直されました。これにより4月以降はこれまでの個別訪問によるより高い管理料の算定はできなくなります。


 また、在宅時医学総合管理料、施設入居時等医学総合管理料は共に軽度者に対する月1回の訪問診療による点数が新設され、これまでの月2回の訪問診療の中でも患者の状態によって「別に定める状態の患者**」とそれ以外とに分かれました。その中でさらに、単一建物患者が「1名の場合」、「29名の場合」、「その他の場合」で切り分けられるという複雑なマトリクスとなりました。


【図表1.】

スクリーンショット 2016-03-01 8.12.58.png

*ただし、在宅時医学総合管理料に限り、医学管理を行う患者数が当該建築物(マンション、団地等)の戸数の 10%以下の場合には単一建物診療患者が1人としてみなす。


**別に定める状態の患者【平成28210日中医協答申より抜粋】

1.以下の疾病等に罹患している状態

末期の悪性腫瘍、スモン、難病の患者に対する医療等に関する方売り津に規定する指定難病、後天性免疫不全症候群、脊椎損傷、真皮を超える褥瘡

2. 以下の処置等を実施している状態

人口呼吸器の使用、気管切開の管理、気管カニューレの使用、ドレーンチューブ又は留置カテーテルの使用、人工肛門・人工膀胱の管理、在宅自己腹膜灌流、在宅血液透析、酸素療法、在宅中心静脈栄養法、在宅成分栄養経管栄養法、在宅自己導尿の実施、植え込み型脳・脊髄電気刺激装置による疼痛管理、携帯型精密輸液ポンプによるプロスタグランジンl2製剤の投与

 


 個別点数をみると減算となった点数(オレンジ)自体は少ないことが分かりますが、在宅時医学総合管理料では重症度の高い「別に定める状態x単一建物1名」で400点上がったのに対して、最も対象患者の多いと思われる「別に定める状態以外x単一建物1名」がこれまでより400点下がりました。


平成26年度改定で一律に4分の1まで減算された施設入居時等医学総合管理料は点数こそ改善されましたが、個別訪問で高い点数を算定していた医療機関は減収となります。前述の通りグループホームや特定施設以外の有料老人ホーム等は今改定から施設入居時等医学総合管理料の対象となるため、減額の幅はさらに大きくなります。たとえば、機能強化型(病床なし)の医療機関があるグループホームの定員20名全員に対して、これまで個別訪問で高い管理料を算定していた場合、別に定める疾患の場合で約4割減(4,600→2,640点)、別に定める疾患以外の場合で約4分の14,600→1,300点)にまで減少することになります。

 

 これらの改定内容を踏まえると、居宅でがん末期など重症者を中心に診療していた医療機関は増収となる一方で、軽症者を中心に診療していた医療機関は減収になることが予想されます。

 施設中心の医療機関では、まとめて診療を行っていた医療機関は増収、個別訪問を行って高い管理料を算定していたところは減収、特にグループホームなどこれまで在医総管だった施設については大幅な減収が予想されます。  

 

2. 充実した緩和ケアを提供する医療機関をさらに評価

  

 今回の改定では充実した緩和ケアを提供する医療機関に対する加算も設けられました。

 

 新設された在宅緩和ケア充実診療所・病院加算では、機能強化型の在宅療養支援診療所の中で過去1年間の緊急往診件数15件以上、自宅看取り件数20件以上、PCA導入2件以上などの施設基準を満たした医療機関が評価の対象となりました。この加算は往診料やターミナル加算も対象となり、医学管理料においては「別に定める状態以外x単一建物患者1名」の減額分を相殺できるだけのインパクトがあります。オピオイド系鎮痛薬のPCA導入については、地域によっては注射麻薬を取り扱う薬局がないなどの課題もあり、今回の改定を期に、地域での取り組みが進むことが期待されます。


 また、機能強化型以外の在宅療養支援診療所を対象とした在宅療養実績加算の算定要件にも「緩和ケア研修の修了」が盛り込まれるなど、在宅医療において緩和ケアを重視する傾向が伺えます。

 

3.  在宅医療専門の医療機関が新設。在宅患者比率95%を境界にした医療機関の整理は全体に影響

 

 今回の改定で最も注目されているのが「在宅医療専門の医療機関の新設とその全体への影響」です。


 まず在宅患者比率*95%という新たな基準によって、在宅患者比率95%以上の場合は「在宅医療を専門とする在宅療養支援診療所」、95%未満の場合は「(新基準の)在宅療養支援診療所」と定義されました。具体的には、在宅患者比率が95%以上の場合は自動的に「在宅医療を専門とする」と見なされ、機能強化型の要件に加えて、在宅患者全体に占める施設患者の割合が70%以下であること、要介護3以上又は「別に定める状態の患者」の割合が50%以上であることなど、厳しい施設基準の対象となります。一方、施設基準を満たせない実質在宅専門の医療機関は措置期限の平成29331日までに、下記の3つから対応を選択しなくてはなりません。

*在宅医療を提供した患者数/在宅医療及び外来医療を提供した患者数


   在宅専門の開設基準および施設基準を満たす

   外来を開始し、在宅患者比率を95%未満にする

   医学管理料の減算(20%)を受け入れる

 

 在宅医療専門の施設基準は、居宅の重症者を中心に診療を行ってきた医療機関であれば不可能な水準ではないと考えられます。ただ、機能強化型以上の厳しい施設基準が求められながら診療報酬上の優遇はなく、点数は機能強化型と同等であることを考慮すると、外来診療をはじめて在宅患者比率を95%未満にし、在宅専門の定義から外れる方が医療機関にとっては負担が少なく済みそうです。在宅患者比率95%未満にするための外来患者数も実際にはそれほど多くありません。


【図表2.】

スクリーンショット 2016-03-01 8.10.59.png

 今後の疑義解釈で明らかになる在宅患者率の算出方法によっては、外来診療のための移転やその他の設備投資が検討されたり、在宅専門のクリニックの新規開業にあたっても一定の外来機能が想定されることが予想されます。在宅専門医療機関も一つの在り方ですが、在宅医が早期から地域の患者との関わりを持つことは、医療機関、患者双方にとってメリットがあります。今回の改定を期に、それぞれの医療機関の実情にあわせた外来診療のありかたを再考する価値はあるかもしれません。外来も行う在宅療養支援診療所が増えることは、地域医療の質向上に大きく貢献すると思われます。


【参考】平成28年度診療報酬改定答申【中央社会保険医療協議会(平成28年2月10日)】 

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000111936.html


*********************

 

◆在宅医療専門の在宅療養支援診療所


【開設基準】

(1) 無床診療所であること。

(2) 在宅医療を提供する地域をあらかじめ規定していること。

(3) 外来診療が必要な患者が訪れた場合に対応できるよう、地域医師会(歯科医療機関にあっては地域歯科医師会)から協力の同意を得ている又は(2)の地域内に協力医療機関を2か所以上確保していること。

(4) 規定した地域内において在宅医療を提供していること、在宅医療導入に 係る相談に随時応じていること、及び医療機関の連絡先等を広く周知していること。

(5) 往診や訪問診療を求められた場合、医学的に正当な理由等なく断ることがないこと。

(6) 診療所において、患者・家族等からの相談に応じる設備・人員等の体制を整えていること。

(7) 緊急時を含め、随時連絡に応じる体制を整えていること。

 

【施設基準】

 診療所であって、現行の機能強化型の在宅療養支援診療所の施設基準に加え、以下の要件を満たしていること。

(1) 在宅医療を提供した患者数を、在宅医療及び外来医療を提供した患者の合計数で除した値が0.95 以上であること。

(2) 過去1年間に、5か所以上の保険医療機関から初診患者の診療情報提供を受けていること。

(3) 当該診療所において、過去1年間の在宅における看取りの実績を 20 件以上有していること又は重症小児の十分な診療実績(15 歳未満の超・準超重 症児に対する総合的な医学管理の実績が過去1年間に 10 件以上)を有して いること。

(4) 施設入居時等医学総合管理料の算定件数を、施設入居時等医学総合管理料及び在宅時医学総合管理料の合計算定件数で除した値が0.7 以下であること。

(5) 在宅時医学総合管理料又は施設入居時等医学総合管理料を算定する患者 のうち、要介護3以上又は当該管理料の「別に定める状態の場合」に該当 する者の割合が50%以上であること。


 

 在宅緩和ケア充実診療所・病院加算

【施設基準

(1) 機能強化型の在宅療養支援診療所又は在宅療養支援病院の届出を行っていること。

(2) 過去 1 年間の緊急往診の実績を15件以上かつ在宅での看取りの実績を20件以上有すること

(3) 緩和ケア病棟又は在宅での1年間の看取り実績が 10件以上の保険医療機関において、3か月以上の勤務歴がある常勤の医師(在宅医療を担当する医師に限る。)がいること。

(4) 末期の悪性腫瘍等の患者であって、鎮痛剤の経口投与では疼痛が改善しないものに、患者が自ら注射によりオピオイド系鎮痛薬の注入を行う鎮痛療法を実施した実績を過去1年間に2件以上有すること。

(5) 「がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会の開催指針に準拠した緩和ケア研修会」又は「緩和ケアの基本教育のための都道府県指導者研修会等」を修了している常勤の医師がいること。

(6) 院内等において、過去 1 年間の看取り実績及び十分な緩和ケアが受けられる旨の掲示をするなど、患者に対して必要な情報提供がなされている。





外国人介護人材受入に関する日本再興戦略

2016年2月24日

   介護事業部・海外事業部 コンサルタント 鈴木勝也

 

外国人を介護人材として受け入れる、という計画が2014年の日本再興戦略に記され、多くの介護事業者の関心を集めました。

実現には、様々な制度の見直しなどが必要で、現時点(20162月)では、まだ受入の方針は決まっていませんが、外国人が介護現場で働く事の現状と、制度が改正された場合どのようになりそうか、ということを現在議論されている内容から整理したいと思います。

続きを読む "外国人介護人材受入に関する日本再興戦略"

1  2  3  4  5  6  7  8  9  10  
ページの先頭へ戻る