療養病棟から介護医療院への転換

2020.08.07

コンサルタント 柴山 悠

弊社ではコンサルティングサービスの一環として病院の事業拡大や経営改善を行っております。本稿では弊社支援先病院の経営改善計画において、ご提案内容のひとつにあがった「介護医療院」についてご紹介します。

はじめに

日本の高齢化は疾病構造の変化を通じて必要とされる医療の内容にも変化をもたらしました。つまり、これまでは主病名の治療を行い、治癒を目指す「病院完結型」医療が提供されてきましたが、日本の医療技術の向上により平均寿命は延び、複数の疾病や慢性疾患を抱える高齢者を中心に、その複雑な病態を改善させ、病気になる前の日常生活へ戻すためのリハビリテーションを行い、住み慣れた地域へ帰すことを目指す「地域完結型」医療への転換が求められています。

超少子高齢化社会において、増え続ける日本の国民医療費をいかに減らすかが、喫緊の最重要課題であり、改革すべき点はたくさんあります。その一例として、現在、病院病床は約30万床が空床で、2000年の介護保険制度創設後、20年足らずで約120万床の特養・老健などの高齢者向け施設ができています。一方で病院病床はもっと少なくてもよいのではないかという意見も多く見受けられます。日本は諸外国に比べて人口当たりの病床数が多く、病床当たりの医師・看護師の数が少ないことで知られています。病院病床を減らすことができれば、看護・介護職員不足も解消され、空床も減り、適切な病院運営が期待できます。そこで全国の約30万床の空いている病院病床を介護施設に転用して何とか利用する方法はないかと考えられたものが介護医療院でした。

介護医療院とは

2018年4月に新設された介護医療院は、2018年3月末までで実質廃止された25対1医療療養病床と介護療養病床の新たな転換先施設として創設されました。誰もが開設できるわけではなく、基本的には民間・公的医療機関と、社会福祉法人からの転換による開設が認められています。また、介護療養病床と25対1医療療養病床からの移行が優先されるため、介護医療院の新設および一般病床からの移行については規制がかかり、少なくとも2021年となる見込みです。

介護医療院の施設目的は、「要介護者であって、主として長期にわたり療養が必要である者に対し、施設サービス計画に基づいて、療養上の管理、看護、医学的管理のもとにおける介護及び機能訓練その他必要な医療並びに日常生活上の世話を行うことを目的とする施設」とされ、医療法における「医療提供施設」として位置づけられ、医療の必要な要介護高齢者の長期療養・生活施設としての性格も併せ持つものとされています。

しかし、これでは老健とあまり変わらないのではないかという意見もあります。これについて、厚生労働省老健局老人保健課の西嶋康浩氏は2018年6月の社会保険旬報の中で次のように述べています。
「介護保険法改正において、老健については『要介護者であって、主としてその心身の機能の維持回復を図り、居宅における生活を営むことができるようにするための支援が必要である者に対し施設サービス計画に基づいて、看護、医学的管理の下における介護及び機能訓練その他必要な医療並びに日常生活上の世話を行うことを目的とする施設』と新たに定義したことを鑑みれば、同様に、医療を内包した介護保険施設(医療法における医療提供施設)でありながら、介護医療院と老健の基本的な考え方は異なっている。」
また、今まで病院からの在宅復帰先施設として主に役割を担ってきた老健が2018年3月以降在宅復帰先施設として認められなくなり、その代わりに介護医療院が在宅復帰先施設として加わりました。

今後、老健の入所者が減少し経営が厳しくなることで、代わりにサ高住やグループホームに転換できないか、また老健ごと介護医療院に転換できないかといった相談が日本中で増える可能性があります。

転換へのハードル

介護医療院の人員・施設基準については、下記、図1・図2をご参照ください。療養室の床面積、レクリエーションルームの確保などで調整が必要かもしれませんが、一般的な療養病床であれば転換に関しては比較的難易度は高くないかと思います。むしろ、従前の病院施設に併設することで、レントゲンやCT、検査器具なども全て今ある物を利用できます。慢性的な職員不足に悩む医療機関であっても、看護職員、薬剤師、介護職員を新たに雇う必要もありません。例えば一般病床と療養病床を保有する病院において、収益の伸び悩む療養病床を介護医療院に転換し、人員を一般病床にまわすことで手厚くし収益の向上を目指すなどの施策も検討できるのではないでしょうか。


図1 介護医療院の人員基準
(みずほ情報総研株式会社 介護医療院開設に向けたハンドブックより)


図2 介護医療院の施設基準
(厚生労働省 介護医療院の概要より)

国からの介護医療院転換のための支援策として、介護療養病床及び転換老健を介護医療院へ転換した場合に「地域医療介護総合確保基金」、医療療養病床を介護医療院などへ転換した場合に「病床転換助成事業」の助成金が設けられています。また福祉医療機構(WAM)では療養病床転換に関連する施設整備費の貸付条件を優遇しております。

介護医療院への転換をお考えの病院経営者の方々は、病院運営に携わる経営者だけでなく、将来的にどのような病院・施設運営を目指すべきか病院職員とよく話し合い、継続してよりよいサービスを提供するためにどうすべきか検討していただきたいと思います。

介護医療院の利用者像

介護医療院は「生活施設」であり、医療ケアの必要な方が過ごす、新たな概念の介護保険施設です。病院病床数が削減され、これまで病院で入院加療していたような患者さんも、医療ケアを終えたら、在宅復帰します。また、遠くない未来に団塊の世代が医療・介護が必要な時期を迎えます。すなわち、これからはある程度の医療処置が必要な患者さんも自宅で過ごすことになります。しかし老老夫婦や単身世帯など、退院後に世話をしてくれる家族が近くにいなければ、自宅で過ごすことは困難です。そのような方が病院退院後も安心して過ごせる場所として、介護医療院の期待値は高いとされています。そういったなかで、介護医療院では利用者の方の終末期も当然担当することになります。これまでの介護報酬改定の中で厚生労働省も、特養での看取りについて推奨されてきましたが、介護職員の方に無理に終末期を押し付けるべきではなく、やはり最期は病院その他の医療行為が行われるところでお引き受けすべきでしょう。最近では特養への入所待ちが多いため、その部分でも役割を上手く分け、医師や看護師が配置されている介護医療院を利用されるとよいと思います。

認知症専門の介護医療院の提案

昨今、高齢者が急増する中で、認知症患者さんも急激な勢いで増しています。認知症の進行した患者さんは、精神科病院を中心に長期入院しており、基本的に「認知症は精神科で診るべき」との考えはあると思います。しかし、高齢の認知症患者さんは認知症だけでなく様々な身体合併症を抱えていることが多く、精神科の専門医の先生方だけではなかなか対応が厳しい事例もあると実感しています。認知症とは、学問的には脳の器質的変化を伴うアルツハイマー型や脳血管型などが代表的なものですが、軽度の認知障害は症候性に見受けられることも多いようです。つまり不可逆的な認知症と異なり、身体的治療により改善するような一時的認知症状については、内科の範囲であるとの意見もあります。特に脱水、低栄養、電解質異常、高血糖、高度貧血などでは、認知症状を大なり小なり伴います。このような事態を改善するために、精神科の先生方と慢性期医療を担う総合診療医が共診で高齢患者さんの治療をできるような体制作りも必要ではないかと思います。現在、認知症治療病棟は精神病床としてのみ認められておりますが、今後、精神疾患を有する入院患者数は減少すると予測される中で空いた精神病床を活用して、認知症専門の介護医療院で認知症患者さんを精神科の医師と慢性期の総合診療医で対応できるようになれば、2025年には700万人を突破し、65歳以上の5人に1人が認知症になる時代に、より手厚い認知症に対する支援ができると考えております。

さいごに

団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年まであと5年となりました。病院経営・運営担当者を中心に、次の診療報酬・介護報酬同時改定を想定し、さらには自院の置かれた地域の状況について将来予測をし、地域における自院の機能をどのようにすべきかを決めなければならないと思います。

2018年同時改定の特徴として、大量にある名ばかりの急性期病床の山を崩し、療養病床を20対1看護配置に1本化して、重症患者さんをきちんと治療する慢性期治療病棟しか評価しないことを明確にしました。また、介護分野にも医師の介入を促し、加算などで高く評価しています。すなわち、患者さんの病状が改善し、要介護度が低くなれば、結果的に入院期間は短くなり、さらに利用する介護サービスを減らせれば、増え続ける医療介護費用の抑制につながることが期待できます。

冒頭で申し上げたように、日本の医療費を抑制するためには、病床削減は必須だと考えます。純然たる慢性期病院は少なくとも地域包括ケア病棟を持ち、自院の置かれた地域の急性期機能を一部果たさなければその地域での存在価値が希薄になります。また、中途半端なケアミックス病院も、地域多機能病院の機能へと確実に転換していかなければ、地域では認められなくなり、静かに淘汰されるでしょう。つまり、本来の役割を果たしていない全国の約30万の病院空床を1日でも早く介護医療院に転換できるようにすることが改革の第一歩ではないかと考えます。

厚生労働省の調査によると、2019年6月30日時点で223施設だった介護医療院の合計数は2020年3月31日時点には343施設となり、関心の高さがうかがえます。また、うち半数以上の施設が介護療養病床(病院)からの転換となっています。

今のところ一般病床から介護医療院への転換が認められるようになるのは2021年度からといわれていますが、現在改築を検討されている病院経営者の方々は、この機会にぜひ一度検討してみてはいかがでしょうか。