看護師・セラピストの業務負担を改善する 事例とその意義

2020.06.24

コンサルタント
椿望

新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、多くの医療機関はその対応に追われています。新型コロナウイルスに直接対峙している医療機関は、新型コロナウイルス以外の患者の手術・検査の先送りをし、新型コロナウイルスと直接関係がない施設であっても健診や内視鏡検査の休止、軽症患者の受診抑制等を行っています。結果として経営状況が厳しくなっているケースが、多く見られるようになってきました。本稿が医療機関の業務改善のきっかけとなり、このような状況下においてもより筋肉質で効率的な経営を行える一助になればと考えております。

 

  1. はじめに

近年、多くの民間企業が政府の施策により「働き方改革」を進めています。この動きは医療の分野においても同様です。「時間外労働の上限規制」や「有給休暇年5日取得の義務化」等により、長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現に取り組むことが求められています。

たとえば医療機関では、医政局を中心に医師の時間外労働規制の具体的なあり方、労働時間の短縮等についての検討が進められました。この医師の働き方改革によるタスクシフトの余波を受けた看護師やコメディカルでは、これまで以上に様々な業務を担う可能性が高まっています。この事態をふまえ、医療機関によっては医師だけでなく、看護師やコメディカルの業務改善にも取り組んでいる状況です。

 

  1. 問題・課題定義のむずかしさ

医療機関には様々な職種、立場のスタッフがいます。それだけに向き合うべき問題や課題は多種多様です。大きくは、経営者の視点と現場スタッフの視点で、捉え方は異なります。

たとえば経営者が「職員配置の適正化」を目的に、職員配置が過剰となっていることを問題・課題と捉えている時、一方では現場スタッフが「職員業務の負荷軽減」を目的に、入院患者の受入れ数や入浴介助等に業務時間がかかっていることを問題・課題と認識しているかもしれません。

目的により問題・課題の定義や見え方は異なります。両者の目的が重なりあう「職員が適正配置の中で効率的な業務ができること」を実現できるのが理想ではありますが、多くの病院では、経営状況や現場の運営状況にあわせて優先順位をつけ、一つ一つ向き合っていくことになると思われます。これは、一度キリの業務改善で理想的な形を実現することは難しく、常日頃の地道な業務改善の積み重ねが肝要です。この認識を、職種や立場を超えて共有していく必要もあります。

 

  1. 業務改善のポイント

一般的に業務改善は、①負荷が高い業務を特定し、②「ムリ・ムダ・ムラ」の観点から問題・課題を整理し、③要因を分析し、④効率化、自動化、多能化、外部委託化等の観点から具体的な改善施策を検討する、という流れで進められます。

しかし、表層的な問題・課題の解決だけでなく経営の全体像を見るならば、「業務」だけに焦点を絞るのではなく、「業務」に関連する「風土(慣習)」、「組織」及び「IT・システム」等の領域にも改善の余地がないか検討する必要があります。加えて、単なる「改善」に留まらずあるべき姿に向けた「改革」が求められる際には、病院経営の根幹をなす「理念」や「ビジョン」に基づいた業務改善を行うことが大きなポイントです。

 

  1. 業務改善の事例紹介

弊社がこれまでに取組んできた業務改善について、2つの事例を紹介します。

  • 1) 看護業務の改善

医療機関の看護業務は、患者に直接関わる業務(以下、直接業務)と、患者に直接関わらない業務(以下、間接業務)の2つに大別できます。

「直接業務」の例
身体の清潔、入院退院時業務、食事の世話、排泄の世話、診療治療の介助等

「間接業務」の例
看護師同士の申送り、記録・事務、薬剤業務、医師への報告、器具・物品の管理等

弊社が行った業務量(時間)の調査では、医療機能や病棟構成、患者の重症度、医療・看護必要度、入院・転入患者数、看護配置(日勤帯や夜勤帯のシフトを含む)等の影響による偏りはあるものの、平均して、直接業務よりも間接業務の業務量の割合が多いことが分かっています。また「直接業務」では身体の清潔、排泄の世話、「間接業務」は記録・事務、看護師同士の申し送り、そして薬剤業務に負荷がかかる傾向がみられました。これらの業務に負荷がかかる要因として、(看護師の経験年数・スキル、患者の重症度、医療・看護必要度等を考慮しない場合)院内における過去からの慣習により業務が行われていること、統一したルールがないこと、組織を横断した現場運営がないこと等が挙げられます。

改善施策を検討する際は、業務ごとに、大きな流れや細かい手順を可視化した業務フローを用います。「時間」、「人数」、「回数」の構成要素から問題・課題を解決するだけでなく、院内における過去からの慣習から脱却するための統一したルールの策定や業務改善を推進するための組織を横断したワーキング・グループの立上げ・運営等も必要だと考えます。

  • 2) セラピスト業務の改善

医療機関のセラピスト業務は、リハビリ(施術)が中心です。1単位20分、患者1名につき6単位(回復期は9単位)を上限とし、1日18単位(1日6時間)、週108単位(週36時間)を目標に業務を行います。

セラピストの1日の業務を見ると、その時間のほとんどを直接業務が占めています。これは看護業務と異なる点です。つまりセラピストの業務改善に取り組むならば、直接業務・間接業務それぞれの負荷の軽減に取り組むよりも、1日の目標単位数を取得できないことや、目標単位数を取得するための時間外業務増加等を問題・課題と捉える必要があります。セラピスト業務の負荷となっていることとして、リハビリの患者から次の患者への移動、患者の急変や外出等によるリハビリスケジュールの更新、検査・測定後の記録・事務、カンファレンスによるセラピストの拘束等が挙げられます。

改善施策を検討するにあたっては、失われた単位数を即時に調整できるようなスケジュール管理の仕組みやタブレット端末の活用、カンファレンスの動画配信等が考えられます。

 

  1. 業務調査・分析のアプローチ

業務改善に向けた業務調査・分析のアプローチには、6つのステップ(下図参照)があり、調査方法は「定量調査」と「定性調査」の2つに分けることができます。また「定量調査」には、業務内容を1分単位で「紙の調査票」に記録する方式と、スマートフォン端末のアプリケーション「MIERU」を用いて記録する方式の2つがあります。

図表1-1 業務調査・分析のアプローチ(クリックで拡大表示されます)

 

「MIERU」による現地調査では、調査対象となる看護職員にスマホ端末を配布し、アプリケーションを起動して日勤と夜勤で1週間程度の業務時間を記録しました。利用するアプリケーションは、弊社が定量調査を目的に開発し、業務の開始と終了に合わせて該当する業務のアイコンを押下するもので、操作はとてもシンプルです。

図表1-2 調査ツール及び報告書イメージ(クリックで拡大表示されます)

 

  1. 医療機関における業務改善の難しさ

民間企業で進められている業務改善(生産性の向上等)が、医療機関では取り組むこと自体が困難であり、改善効果を発揮できないケースがしばしばあります。ボトルネックとして考えられるのは、「専門性(特殊業務)」、「慣習」、「病院経営の理念やビジョン」ではないでしょうか。以下でそれぞれについて説明します。

「専門性(特殊業務)」
看護師やセラピストは、専門的な知識・技術を国家試験等の狭き門を通過して習得しています。専門性を問われる業務である以上、資格を持たない現場職員に業務移管することは容易ではありません。また患者の容態の急変等、緊急事態にも柔軟な対応が求められるため、定型化した自動ツールやシステムでの代替が難しいなどの事情もあると考えられます。

「慣習」
どこの医療機関にも、職種や病棟ごとに長年培われ、経験や技術と共に形成された暗黙のルールや慣習があるのではないでしょうか。そのような慣習を見直すことは、それまでの自分たちを疑い、否定することになりえます。これを避けようという意識が働き、業務改善の重要性を理解しつつも組織的に合意して業務改善を推進する側に立てない、といった事情もあるように思われます。

「病院経営の理念やビジョン」
医療機関の中でも中小規模の病院では、現場職員の技術が高く少数精鋭の体制で運営できている限り、業務改善の重要度が低く感じられる可能性があります。しかし施設の規模が拡大し現場職員が増えた時、それまで明文化された理念やビジョンを持たなかった組織では、現場職員の統制が利かなくなり、現場業務の個別最適から全体最適へのシフトができないといった事態に直面することになります。

医療機関の業務改善を行うことの難しさには、このような様々な事情があります。容易ではないと認識しつつも、現在は「働き方改革」という大きなテーマで「業務改善」を行うには良い機会であるという見方もできます。

今は新型コロナウイルス感染症対策に伴い、オンラインや電話を用いた遠隔診療等を推進する動きなど医療現場は大きく変化しつつあります。このような事態も踏まえて弊社では、今後も医療現場の業務改善の支援に力を入れていきたいと思っております。


執筆:椿 望  Nozomi TSUBAKI
株式会社メディヴァ コンサルタント。現在は200床の専門病院、300~400床の地域中核病院における業務改善、その他中小規模の医療機関における経営改善等の支援に従事。