「同一労働・同一賃金」の医療機関への影響

2020.02.19

 コンサルタント  津田 有彦

1.はじめに

2020年4月1日(当初は大企業のみに適用)にパートタイム・有期雇用労働法(以下、「パート・有期法」という。)が施行され、2021年4月1日には中小企業への適用も始まります。同一労働同一賃金については、各医療機関においてもこのパート・有期法の施行に向けて準備を進めているところが多いと思われます。

しかし元々は、2012年8月に改正された労働契約法第20条において、不合理な労働条件は禁止されており、正社員と非正規社員の不合理な待遇格差をめぐって既に最高裁判決がいくつも出ています。

したがって、この問題について労使紛争が生じそうであれば、法律の施行・適用を待たずに早急に対応していく必要があります。

2.厚労省ガイドラインと直近の裁判動向

同一労働同一賃金については、職務内容や人事異動の変更範囲などの実態に違いが無ければ同一の(均等待遇)、違いがあれば違いに応じた支給としなければならない(均衡待遇)と定められています。

すでに厚労省からガイドラインが公表されており、基本給と②賞与、③各種手当、④福利厚生・教育訓練の4点について、問題となる例・問題とならない例といった具体例を挙げて概要が示されています。


 厚生労働省HP「同一労働同一賃金ガイドライン」の概要より

また、裁判動向については事例ごとに事情が違い、判決が割れているケースも多く一律の判断は難しいのですが、下記は判決例になります。

(基本給)
正職員とアルバイトの2割程度の格差は不合理ではない。(大阪医科薬科大学事件)

(皆勤手当)
職務が同一であれば同一の手当を支給すべき。(ハマキョウレックス事件)

(住宅手当)
正社員は転居を伴う配置転換によって住宅費用が多額になるので、正社員のみに支給しても不合理ではない。(ハマキョウレックス事件)

(賞与)
契約職員には正職員の80%を支給しており、フルタイムアルバイトが60%を下回るのは不合理。(大阪医科薬科大学事件)

(夏季有給休暇)
フルタイムアルバイトに正社員と同じ夏季有給休暇を認めないのは不合理というほかない。(大阪医科薬科大学事件)

3.医療機関における賃金の特殊性

通常は企業では正社員よりパートタイマー・契約社員の方が給与(時給)が低いというのが一般的ですが、医療機関の特殊性としては、特に医師や看護師は時給(もしくは日給)の相場が、正職員の月給を時給ベースに換算した金額より高いことが多いという特徴が挙げられます。

賞与や退職金、社会保険の適用といった待遇全体を考えると、正職員の方が手厚いことがほとんどのようですが、いざ裁判となると一つ一つの手当や労働条件の相違ごとに判決が下されるので、今後の対応としては判例に合わせて賃金体系を変えていくしかありません。

4.医療機関における「同一労働同一賃金」への具体的な対応

(1)賃金

  1. 諸手当
    先ず賃金面においては、正職員に支給されている諸手当が正職員以外のパートタイマー等にも支給すべきものかどうかを判断し、正職員より低い金額とすれば何%が妥当かを決定します。この割合については、パート・有期法により説明をする義務が使用者に課せられています。
    諸手当の数が多く、意味がはっきりしないものがある場合は、整理をする必要があります。
  2. 基本給(時給・日給)
    パートタイマー等で諸手当が少なく、時給・日給に比重が偏り過ぎている場合は、その時給・日給を諸手当に割り振ることも考えられます。もちろん支給月額が減らない範囲になりますが、このあたりは上記(1)の諸手当整理と合わせて、労働条件の不利益変更に該当するかどうか、各都道府県の労働局に問い合わせをしながら、労使の話し合いを重ねた上で慎重に決めていくステップが必要になります。
  3. 賞与・退職金
    パートタイマー等の職務内容や労働実態により判断が変わってきますが、支給無しとすることは今後難しく、支給する範囲や金額について労使で話し合いをして決めていくことが望ましいと思われます。

 

(2)福利厚生・教育訓練

厚労省ガイドラインは、福利厚生や教育訓練についても職務の内容や雇用期間に応じた取り扱いを求めています。具体的な項目は下記の通りになります。

      • 食堂、休憩室、更衣室といった福利厚生施設の利用、転勤者用社宅、慶弔休暇、健康診断に伴う勤務免除・有給保障
      • 病気休職、法定外の有給休暇その他の休暇
      • 教育訓練 

5.結び

今後は賃金等の格差について、使用者には説明義務が課されるので、就業規則・賃金規程もしくは雇用契約書には新しく労使で決定したルールを詳細かつ明確に記載していくことになります。

医療機関全体の取り組みの進捗を待ったり、揺れている判決の蓄積を待つよりも、ガイドラインに沿って積極的かつ早期に対応していくことをお勧めしたいと思います。