ヘルスケアの「明日」を語る

「健康経営」で経営者の賛同を得るために

2017.05.15

5月13日の土曜日に、産業衛生学会の公募シンポジウムで登壇しました。お題は「産業保健活動の健康経営に繋がる活動内容と成果の可視化」で、座長は産業医科大学の森先生、大神先生です。

演者は両先生以外には、健康経営研究会の岡田先生、東京大学(現東北大学)の津野先生、産業医科大学の永田先生と立派な研究者ばかり。その中で、医療職ですらない私は、アウエイ感半端なかったです。

経営者が健康経営を話題にしない理由

1人15分の持ち時間だったので、私は「可視化」に特化し、「いかにして経営者の心に響く資料を作るか」を喋りました。元々マッキンゼーのパートナーだったので、経営者とお話しするのは本業です。

加えて、ここしばらくは資生堂、江崎グリコ、アステラス製薬、参天製薬など、大企業の非常勤取締役を務めているので、役員会というものも数多く経験しました。

その経験から言うと、世の中で「健康経営」は盛り上がっていますが、相変わらず取締役会でこの話題が出ることは、ほぼありません。

こんなに話題として盛り上がっているのに。「人」は「人財」であって、本来企業にとって最も大事な財産なのに。そもそも、人の命や健康は何ものにも代え難いはずなのに。何故??!

そんな気持ちを、仕事の中で持たれた産業医さんや産業保健スタッフは数多いと思います。それは、何故か? 実は経営者の大部分は「健康」の話題に興味がありません。というか、分からないのです。

例えば、経営者が頭を悩ませる課題には、下記のようなものがあります。

・当社の株価が下がってる(上がらない)。どうすれば、良いか?
・円高が進むと赤字になる。損益分岐点は◯円だ。
・中期計画の目標売上には届いているが、営業利益が足らない。後、どれくらい伸ばさないといけないか。

これらの話題は、反対に多くの産業保健スタッフにとって、???だと思いますし、興味もないかもしれません。経営者と産業保健スタッフは、そもそも見ているもの、喋っている言葉が違うのです。

それでも健康経営を進めていくには、経営者の賛同、バックアップが必要です。そのためにも、経営者が関心を持つ見せ方をしなくてはなりません。シンポジウムは短い時間しかなかったので、簡単にポイントを絞ってご紹介しました。

いかにして経営者の心に響く資料を作るか

まずは「現状」の可視化。

経営者にとって馴染みのある3C分析(Customer-Company-Competitor)のフレームワークは、役立つでしょう。Companyを分析するとき、医療費やHbA1cが高い人の数からスタートしてはいけません。

多くの経営者は「医療費」に対して、ほとんど興味がないからです。

「医療費」は健保の問題で、会社は既に事業主分を標準報酬に比例して払っています。もちろん医療費が高くなりすぎると事業主負担が増えますが、社内で生活習慣病が増えることより、高齢者の拠出金の方が大きな影響を与えます。「HbA1c」については、そもそも分かりません。8が高いのか?10だとどうなるのか?実感が湧きません。

では、何から伝えると良いでしょうか。

結論から伝える、エレベーターテスト

私が経営者にお話するならば、分かりやすくするために「在職死亡」から入ります。「在職死亡」の後ろに、何人重大な疾患での手術・入院患者がいて、その後ろに何人の放置された生活習慣病患者がいて…。

これならば、経営者もピンときます。

マッキンゼーにいた時、若手のコンサルタントが必ず練習させられる「エレベーターテスト」というのがありました。「エレベーターテスト」とは、「社長とたまたまエレベーターで乗り合わせた。社長が降りるまでの1分でプロジェクトの内容を伝えよ」というものです。これは決して、早口で喋る練習ではありません。

1分なので「先日、健診結果が届いたので、これを分析しますと…」なんて言っていると、あっという間に着いてしまいます。そこで、まずは「結論」から喋る。次に「なぜそうなってるか」の「構造」を喋る。

この例でいうなら「2016年に在職死亡者が◯人いました。このうち◯人は、亡くならなくても済んだかもしれない人です。この背景には、我が社の健康管理体制にあります。改善するには3つやらなくてはいけないことがあります」とか。

経営者は忙しいです。いろんな課題を抱えてます。マインドシェアを得るためには、簡潔であることが大事ということです。

視覚に訴えるチャート

また、資料にしても、一見してわかるものでないといけません。

医療職の人は、正確性を重んじます。正確で、統計的に正しくて、完璧な資料を作りたがりますが、それでは何を言いたいか分かりにくくなりますをマインドシェアを得るためには、視覚に訴え、心に残るチャートづくりが求められます。

「空・雨・傘」というフレームワーク

最後の重要なポイントは、経営者に話をするときには、アクションに結びつかないといけません。マッキンゼーには「空・雨・傘」というフレームワークがあります。「空が曇っている(ファクト)」→「雨が降るだろう(意味合い)」→「傘を持って行こう(アクション)」の三点セットです。

部門で作っている資料でよく見るのは「空・空・空」です。完璧な現状分析ですが、意味合いと、アクションがありません。

アクションを考えるのは経営者の役割ではないので、「空・空・空」を見せられても、「それは困ったね。どうするか考えて下さい」と言って、差し戻されてしまいます。(怒られることもあります。)

最近「働き方改革」が「健康経営」とセットになって話題に上ることが多く、企業によっては「健康経営」=「働き方改革」のように扱われていることもままあります。

「働き方改革」が経営者に刺さるのは、

・経営者にとって分かりやすい→我が社の生産性を上げたい意識とマッチする
・経営者の関心事に直接インパクトがある→残業が減ると人件費が減る。ワークライフバランスは採用に直結する
・経営者にとってリスクを感じる→某大企業の過労死事件では社長の首が飛んだ
・アクションが取りやすい→従業員を健康にする方法はよく分からないが、働き方を変えさせる方法は思いつく(単なる消灯運動も含む)

このようなことを15分で(本当は2分ほどオーバーしてしまったのですが…)お話ししました。

アウエイ感に満ち溢れてましたが、終わった後、多くの方から「役に立った」、「もっと聞きたい」と激励のお言葉を頂きました。これに気を良くして、またどこかで機会があれば、お話ししたいと思っています。勉強会なども企画予定です。

まずは講演報告ですが、こういうことにご興味がある方がいらしたら、是非メディヴァまでご一報下さい。

 

執筆:大石佳能子(株式会社メディヴァ代表取締役)