海外医療の現場から

米国高齢者サービス報告(2)ON LOK(PACE Program Center)

2014.11.18

11月半ばになり、急激に寒くなってきました。電車でマスクをしている方もよく見かけます。昨日、仕事で会った方は東南アジアで風邪をひかれたとのことで、マスクをされていたのですが、帰国する時「エボラ疑い」で検疫に止められたそうです。でも「どこからの帰国ですか?」と聞かれただけで、即放免されたとのこと。「こんな簡単な検疫で、水際で止められるのだろうか?」とご本人が笑ってらっしゃいました。さて、今回は、米国高齢者サービスのご報告第2弾、テーマは「ON LOK」です。


▼米国高齢者サービス報告 全4回

(1)米国高齢者サービス報告(1)高級シニア向け施設を視察しました
(2)恵まれない層向けのデイサービスON LOK (この記事です)
(3)シニアタウンのRossmoor
(4)米国の高齢者住宅事情(4)類型の振り返りと総括【最終回】

ON LOK(PACE Program Center)とは

「ON LOK(PACE Program Center)」は、サンフランシスコの中国人街近くで運営される、全米のモデルとなったデイサービスセンターです。

◎対象者

経済的に恵まれない人たち、Medicare、Medicaidの保険を使う人たちを、対象者としています。利用を開始するには、「ナーシングホームに入れるくらい介護ニーズが高いが、自宅で過ごせる」という条件が必要です。現在、1300人の方がこの施設を利用されています。45年ほど前、チャイナタウンに住む中国語しかできない高齢者たちが、安心して地域で住み続けることができるモデルを模索し、中国系の歯医者さんが創業しました。「ON LOK」とは「安楽」を意味するのだそう。

◎サービス内容

デイサービスなので、日中のケアを提供します。ご利用者はアジア系が6割で、中国系が中心。アクティビティは、読書会や遠足、聖書を読む会やWii、カラオケがありますが、なんと言っても麻雀が人気とのこと。食事も中華料理が人気があります。

◎ポイント

ON LOKで開発されたPACEプログラムは全米各地に拡がりました。PACE (Program of All-inclusive Care for the Elderly)は、all-inclusiveという言葉にあるとおり、医療、介護を含めた「完全な包括システム」になっています。

療養型の施設に入るような医療、介護を必要とする高齢者が、人生の最後の数年を自宅で過ごすことができるよう、医療、介護、生活の各側面で総合的にケアを行います。

PACEプログラムのすごいところは、医療と介護が完全にシームレスに融合されて提供されていることです。IDT(Inter Disciplinary Team)と呼ばれる医師、看護師、ソーシャルワーカー、管理栄養士、OT、PT、介護士等によって構成されるチームがご利用者のアセスメントを行い、「生涯に亘って」医療的な責任を負います。ご利用者が体調を崩した場合は、施設内のクリニックに掛かります。もちろん大きな病気になった場合は、外の専門医や病院を受診、入院することになるのですが、その場合もプライマリケア医として紹介、連携、受入れの責任を「役割」としてだけではなく、「経済的」にも負います。

ON LOKでみた、究極の垂直統合

ON LOKの収入は、Medicare、Medicaidから支払われています。

少し古いデータになりますが、人生の最期の半年に掛かるMedicareのコストは、月額3900ドルだったのに対し、ON LOKは2899ドルと4分の3でした。これは、IDTが定期的にご利用者の体調をチェックして早めに介入すること、早めに診断をつけ紹介することにより、あちこちの専門医を渡り歩くのを防ぐこと、退院の時に責任をもって適切にコーディネートすること等によって実現されています。また退院後は、リハビリもON LOK施設で提供され、リハビリ用のプールもありました。

このように、ON LOKは本当の意味での「家庭医」がいる環境です。高齢になって、自分を日ごろからよく診てくれている医師、看護師、コメディカルが最期まで責任を負ってくれるというのはコスト効率が良いだけでなく、ご本人にとって幸せなことだと思います。

ON LOKは生活の面倒も見てくれます。入浴も提供していますし、施設内で食事をするだけでなく、配食が必要な人には施設内で夕食を作って、必要分持ち帰えってもらいます。帰宅してからはヘルパーの介助も依頼できます。

自宅で最期まで自分らしく過ごしたい、と思う方にとってはもってこいのサービスだと思われます。ON LOKが提供するPACEプログラムは、その後全米各地に拡がったのも納得がいきます。

日本の場合、医療と介護が通常は別の主体により提供され、保険も別になっています。両者の「連携」が大事とは言われますが、「連携」には莫大な時間的、労力的コストが掛かります。最近、在宅医療を専門にやられている先生方と話をすると皆さん仰るのは「必要なのは連携ではなく、統合だ」とのことです。私もその通り、と思っているのですが、ON LOKには「究極の垂直統合」の姿を見たような気がしました。

▼米国高齢者サービス報告 全4回

(1)米国高齢者サービス報告(1)高級シニア向け施設を視察しました
(2)恵まれない層向けのデイサービスON LOK (この記事です)
(3)シニアタウンのRossmoor
(4)米国の高齢者住宅事情(4)類型の振り返りと総括【最終回】


執筆:大石佳能子(株式会社メディヴァ代表取締役)