ヘルスケアの「明日」を語る

米国高齢者サービス報告(1)高級シニア向け施設を視察しました

2014.10.21

10月も半ばになって、寒くなってきましたが皆様はいかがお過ごしでしょうか。私は先週一週間、サンフランシスコを中心に、シニア向けのレジデンスやサービスを視察してきました。全4回にわたり、ご報告と総括のレポートを書かせていただきます。

介護制度について

高齢者問題は、アメリカでも大きな課題になりつつあります。医療における国民皆保険がない国なので、介護保険制度もありません。重度の介護状態になれば「Medicare」の支払いを受け「Skilled Nursing Facility」(療養型の病院のようなところ)に入ることもでき、貧困層だと「Medicaid」の補助があります。

しかし、困るのは、生活支援から軽い介護状態にある中間所得層の高齢者です。民間保険に十分に加入している人は、人口の10%もなく、企業年金や軍人恩給、貯金の取り崩しなどを使って老後生活を「綱渡り」している高齢者も多いことが分かりました。

加えて、「ケアマネージャー」という制度がないので、複雑なMedicare, Medicaidの仕組みを理解し、各種年金等を組み合わせ、どのサービスを、どの時点で入れるかを考えるのは、高齢者自身か息子、娘たちの肩に掛かってきます。

ここまで読まれた方の中には、アメリカの高齢者の悲惨な姿を想像し、「日本は学ぶところはない」と思われる方もいるのではないでしょうか。しかし実は「制度がないから創意工夫が生まれる」という逆説もあり、極めて興味深い視察となりました。

合理主義と個の尊重が生んだ「いくつになっても自分らしく」

もっとも勉強になったのは、アメリカ的な合理主義と個人の自立や独立性を担保する工夫です。懐具合の問題もあるでしょうが、それ以前にアメリカ人は「いくつになっても自分らしく暮らしたい」という意識が強くあります。

老人ホームや介護住宅に入るのを嫌がり「自宅で、自由に暮らしたい」という思いをもつシニアのために、高齢者住宅もホームも工夫を凝らしていました。また、合理的に成果を問うのもアメリカらしく、他のサービスと比べてどれだけMedicare、 Medicaidの費用がセービングできたかが測られます。

合理的に評価できるところにはある程度まとまった金額が出るのも興味深く、例えば在宅復帰を支援する老健施設のようなところには期間限定ですが、一日10万円ほどの入院費が保険から支払われます。

ここからは、見てきたところの抜粋と興味深かったポイントです。見学したところが複数に亘るため、全4回の連載でご紹介します。

(1)高級老人住宅のSequoias
(2)恵まれない層向けのデイサービスであるON LOK
(3)シニアタウンのRossmoor
(最終回)総括

もしも詳しい資料をご希望の方は、メディヴァまでお問い合わせください。

 

(1)サンフランシスコの高級老人住宅(CCRC型)

サンフランシスコの中心部に位置し、市内西部では最も高い26階建てビル内の高齢者住宅。CCRC とは、高齢者の介護度が上がるにつれ、それに応じたサービスを同じ場所で提供する保険型の施設。屋上に上がればゴールデンゲートブリッジの遥か向こうまで見渡せる最高の立地です。

◎入居の条件

入居条件は、自立であること(火事になったら独りで逃げることができる、が定義らしい)とある程度以上の貯蓄もしくは保険。

◎入居金・月額費用の例

住宅は自立型が271室、介護型が18室、認知症対応型病床が19床、療養型病床が50床で合計約400人が暮らす。部屋は、40平米のワンルームから120平米ほどの2LDK(風呂2か所)まで。ワンルームの入居金、月額費用の例は($1=110円)。

「返金型」(入居金2190万円、月額32万円で、より高度なケアが必要になれば追加料金が発生。代わりに退去時に入居金の90%が返却される)、「ライフケア」型(入居金1560万円、月額37万円で、4年償却され、介護状態に応じた追加料金が発生しない)などを選ぶことができます。

入居金も月額費用も、部屋の大きさに応じて変わり、一番大きな2LDKだと入居金が4900万円、月額が56万円程度です(「返還型」)。金額の高さには一瞬息をのみますが、日本の高級老人ホームの入居金、月額費用と比べた時、近似する価格帯のものはあるのではないでしょうか。

◎室内

日本との違いはまず部屋の大きさで、圧倒的に広く、部屋一面に窓が広がっています。アメニティも素晴らしく、月額費用の中には、レストランでの3食、クリニック、リハビリセンター、フィットネスセンター、5000冊の本を有する本格的な図書室、市内各地やアクティビティに入居者を連れていくためのバス、各種アクティビティなどが整備されていました。

◎ポイント

興味深かったのは、50に及ぶ入居者のコミッティーがあり、例えば図書室でどういう本を買うか、フロアに掛ける絵を何にするか等もコミッティーで討議され、決定されます。ここでは入居者は「お客様」ではなく、「当事者」なのです。

新しく入居した方の自己紹介文を全員に配布し、入居者の中からメンターが選出され、慣れない間は質問に答え、アドバイスを提供します。1か月は朝ごはんを決まったテーブルで取ることによって、友達づくりを促します。

日本の老人ホームの運営者に困りごととして、「場を仕切りたがり、周りを鬱にするボス的なおばあちゃん」の存在を聞くことが多いのですが、「そういう方には注意を促し、改善しない場合は退去することを促す。訴訟になることもあるけど、コミュニティを守るためには仕方がない」と言い切っていました。やはり単に「お客様」ではなく、「コミュニティの一員」として扱われていることが良くわかります。

あとは細かい工夫として、レストランだけでなく介護棟の食堂にもきちんとテーブルクロスが引いてあること、酒は販売免許が無いので出せないが購入したものを持ち込むのは自由であること、8キロ以下のイヌ、ネコは飼っても良いこと(ドッグランもある)など、できるだけ家と同じような自由と居心地の良さを追求しようとしている努力が見て取れました。入居金方式なのですが、部屋の改装は行ってもよく、壁を取り払い、部屋を広くすることやシャワーをお風呂に変更することも自由です。

日本の場合、福祉の流れを引いているためか、高齢者住宅は病院や特養に模したものになってしまい、部屋の狭さや日中テレビの前に集まる食堂が気になります。図書室やレクリエーションも本格的に楽しめる規模や内容ではない一方、「お客様」として大事に扱われている高齢者を見て、「親を預けるには安心だけど、自分は入りたくない」という人は多いのではないでしょうか。老人ホームやサ高住が相変わらず「施設」と呼ばれているのも、そのためでしょうか。

また高齢者自身も、自分が「当事者」という意識が薄く、主体的に関わることは少ないと感じます。これは高齢者住宅の場合だけでなく、地域包括ケアという新しい流れの中で、住民が参加しながら「Aging in place」が実現できる地域、だれが担い手となって作るのか、という大きな問題にも繋がるのではないでしょうか。

次回は「ON LOK(PACE Program Center)」についてご紹介します。

執筆:大石佳能子(株式会社メディヴァ代表取締役)