ヘルスケアの「明日」を語る

医療機関のガバナンス

2013.11.22

最近はめっきり寒くなりましたが、空は快晴で気持ちいいですね。
皆様はいかがお過ごしでしょうか。

ここ最近の医療界での話題の一つに、徳洲会の公職選挙法違反があります。「徳洲会に入ったら選挙を手伝う」ことは、医療界では常識化していました。「徳洲会の医療は魅力だけど、選挙はイヤだから」と辞めたスタッフの話もよく聞きます。そのため「なぜ今さらこれが問題に???」と驚いた方も多いでしょう。私も、当初そう思いました。

「なぜ事件になったか」は、もちろん単に選挙運動を手伝うだけでなく、その行為に対してお金を払うことが法律に抵触するからなのですが、本件はさらに徳田虎雄氏の一族が、本来は公的なものである病院を「私物化」していたことに発展しました。

徳洲会の場合は、税制的に優遇された「特定医療法人」、「社会医療法人」です。公共性の高い医療事業を行い、同族経営を排する(出資持ち分の放棄、同族支配の制限、役員報酬の明確にするなど)代わりに、医療事業には法人税がかからないといった優遇措置を受けます。にもかかわらず、徳田虎雄氏の親族は、トンネル会社等を通し、巨額の報酬を受け取っていました。徳田虎雄氏に仕えた「番頭」的な幹部と新しい経営者である親族間の内紛。これが、事件が明るみに出た発端です。

この事件は、公職選挙法違反、病院の私物化ということが問題なのですが、突き詰めると徳洲会だけでなく、広く医療機関の「ガバナンス」の問題にぶち当たります。

「ガバナンス」とは、「統治」のことです。例えば、企業では、企業の不正行為の防止と競争力・収益力の向上を目的とした、長期的な企業価値の増大に向けた企業経営の仕組み、をいいます。オリンパスの事件等でもありましたが、どんな優れた経営者でも、独善に陥ると企業の成長は損なわれるリスクがあります。このためのチェック・アンド・バランスを行い、正しく「かじ取り」をする仕組みがが「ガバナンス」です。

株式会社であれば最終意思決定者である「株主」が、執行を任されている「社長」や「取締役」の行動に対してチェックをする機関として機能します。取締役会に更なるチェック・アンド・バランスの仕組みを入れる会社もあります。​例えば、私が非常勤取締役を務めているアステラス製薬の場合は、取締役の過半数は社外の人です。会社の経営方針とその実行の決断には、社外役員がチェック・アンド・バランスを行使します。また会長、社長をはじめとした役員の報酬は、社外役員による報酬委員会で決まります。これは、経営者の独善を防ぎ、専門家の目、外部の目を入れることにより、よりよい公正な「かじ取り」を目指しているのです。

翻って、医療機関の場合、どういう「ガバナンス」の仕組みで動いているのでしょうか?徳洲会のような大きな医療機関でも、大体は一人の医師、もしくは一族が興したものです。徳田虎雄氏は最初は昭和40年代に大阪府で病院を開設しました。

「借金が返せなかったら、保険に入っているから自殺して払う」と徳田氏は銀行に言ったらしいです。幸いにして、病院は大成功しました。株式を発行して資金を集めるという方法がないため、医師は「個人事業」として病院・診療所を興し、「個人」として借り入れを行い、医療法人化した後も「個人」として保証をします。従業員数が1万人に近いの医療法人でも経営者は「個人保証」し、その金額は数百億円に上ります。一般産業界で大企業の社長が「個人保証」を求められることはなく、医療機関はあくまでも「中小・零細企業」扱いなのです。

また、収入を得る時も、個人病院・個人診療所の場合は、収益から経費を引き、税金を払った残りが「院長の取り分」です。これは一般企業では町場の青色申告の事業者と同じ扱いです。ちなみに、医療機関は配当することが認めれておらず、これが株式会社が医療機関経営に参入できない法的な理由ですが、個人病院・個人診療所に限っていえば、「残ったお金はすべて院長の取り分」なので、「100%配当」と実質的は変わりません。これだけリスクを負って成功した場合、その成功の果実をもらってしかるべき、と思って当然でしょう。

株式会社であれば、創業者はリスクを負いますが、IPOしたり第三者に売ることにより成功の果実を得ます。もしも創業者の一族が経営することが不得手であれば、経営からは退いて単なる資本家になればよく、資本と経営が分離することにより、よりよい「ガバナンス」が構築されます。

医療法人の多くは、個人診療所・個人病院から興したものです。個人としてリスクを負って借り入れ、保証し、個人として経費、税金を引いた残りを受け取る。これが医療法人化したあとも、文化として残らないことはありえません。医療法人は基本的に、創業者とその一族の「家業」として育つDNAをもって生まれることになります。さらに「理事長は医師でなければならない」という規制のため、息子、娘を医学部に入れ、継がせることにより益々「家業」としての色彩が強くなるのでしょう。

このようにして育った「家業」は、外部から優秀な経営者を受け入れにくくなります。外部から経営者を入れた場合、まず乗っ取られたらどうしよう?と思うでしょう。事実、外部から入った医師や事務長に乗っ取られるケースも多々見聞きしました。

しかしもっと重要なポイントは、「優秀な人は『家業』に勤めたくない」 ということです。その人が医師であるならば、自分で医療機関を興すでしょうし、医師でないものは給料も高くなく、IPOすることもなく、出世の道も閉ざされているところには就職しません。このようにして、医療法人の場合、優れた「ガバナンス」には必須である「優れた経営者を得る」機会がきわめて制限されます。

医療法人でも、外部の人を理事等に据えて、例えば「地域の目」を入れようとしている例もあります。ただ、問題はその人たちが、どの程度本当に権限を持っていて、どの程度真剣に経営に関与するかです。年に数回集まってそこで意見を言う、程度では経営は変わりません。そもそも名誉職のようなものですから、報酬もほぼなく、「真剣に考える」ことが求められているとは到底思えません。

株式会社が、医療機関を経営する上で優れているといっているのではありません。ただ、医療法人も「家業」を脱し、創業者の負うリスクが適切な範囲に収まり、苦労した人が適切な形でリターンを得、良い経営者が組織の継続的な発展に向けて頑張れる仕組みと、それが正しく行われていることをチェック・アンド・バランスする「仕組み」が必要なのではないでしょうか?

徳洲会の場合も、各施設は地域の医療に大いに貢献しています。今回の事件をきっかけに、単に徳田虎雄氏の親族が経営から退くだけではなく、医療界の模範となるような新しいガバナンス体制に生まれ変わることを期待しています。


執筆:大石佳能子(株式会社メディヴァ代表取締役)