ヘルスケアの「明日」を語る

医療機関の再生に向けて(3)

2009.06.29

(3)事例

 

昨今は病院だけでなく診療所も潰れる時代だ。下記は当社が関わった再生の例である。

東京都千代田区に所在するAクリニックは、東京駅の真ん前という最高のロケーションで開業してから約2年、負債総額は数億を越え、仮に閉鎖するとすれば清算には残存リース等更に数億円必要となる。

同クリニックは元々ある医療法人が東京の出先として設立したもので、乳腺科の高度検査を中核とした女性向けの高度外来クリニックとしてスタートした。マンモグラフィやマンモトームは大学病院クラスのものを設置し、設計は米国のクリニックに習い、家具も全て海外から取り寄せた。最高の立地で、最高の検査機器、高名な医者を揃えれば、「患者は湧いて出るだろう」というのは多くの医療機関経営者が陥る錯覚であるが、現実はそう甘くはない。最も悪い月で、赤字額は月間2000万円を越えた。

当社は別の医療法人との間の売買のコンサルティングとその後の再生オペレーターとしてお手伝いをしたが、新法人が営業権譲渡という形で同クリニックを引き継いだ時は、単に「赤字が多額である」、ということだけでなく、あらゆる面で厳しい状態のクリニックだった。同クリニックが潰れた直接の原因はコスト高と営業不振ということになるが、間接的な原因はオーナー院長によるリーダーシップの欠如とスタッフの意識の低さである。

前号で再生時に必要な「外科的アプローチ」、「内科的アプローチ」、「漢方的アプローチ」というのをご説明したが、同クリニックの再生ではその3つの手法全てを活用した。

1)外科的アプローチ(負債、不採算部門の整理等):同クリニックの「営業権」のみを譲渡する形をとって、数億円の既存負債に関しては新法人は引き継がなかった。ただ、残存リース等の清算をしたら発生したであろう負債に関しては、「営業権」とともに引き継いでいる。

2)内科的アプローチ(売上向上、コスト削減等):コンセプトを見直し、「女性のスタッフによる女性の受診者・患者だけのための高度健診クリニック」に特化し、営業活動を開始した。個人の顧客を対象とするだけでは限界があるので、積極的に健康保険組合や企業の健康診断の受注に努めた。幸いにして若年の女性に乳がん、子宮がんが多発していることが世間の耳目を集めている時期にも重なったため、年度途中の契約が多数締結できた。HP等を通した個人へのプロモーションにも力を入れた。またコストも検査コストを中心に購買交渉を行ない、2桁台の値下げを確保した。一方、人件費単価には敢えて触れず、再生がスタートした翌夏からボーナスを個人の評価に連動させ、メリハリをつけて支給している。

3)漢方的アプローチ(人材・組織作り等):再生開始当時、オーナー院長によるリーダーシップが欠如しており、スタッフもモチベーションが低く、それぞれが自分もしくは自部門にとって最も都合の良いように仕事の内容を解釈していた。例えば、予約受付担当の事務は日に5人以上の人間ドックが入ると「受診者サービスが下がる」と思い込み、6人目の受診者から申込があると「もういっぱいです」と電話を切っていた。

再生後、当社から派遣された事務長を中心に業務を全面的に見直し、一人一人と面談を繰り返し、改革のシナリオを作成し、「皆のクリニックを守ろう!」と説得に当った。再生開始後数ヶ月、業務を変えたくない反改革派の反発は多大であったが、徐々に改革派が勢力を盛り返してきた。退職勧告をした訳ではないが、反改革派のリーダー格スタッフは退職した。今はリーダーシップのある医師のもと、スタッフ間の連携は良好で、院内会議、リーダー会議でも積極的で建設的な意見が数多く聞かれる。

Aクリニックは再生に入ってから約1年半経つが、現在の売上は再生前の3倍近くあり、単月では黒字化している。全ての受診者に出口で満足度調査を行なっているが、「また利用したい」は約95%、「知り合いに勧めたい」は92%程度と高い満足度を確保している。

人心刷新が必要なので、医療機関の場合は一般企業より再生するまでに時間が掛かるが、当社が他で手がけた案件でみても病院、診療所問わず必要な期間は大体1~2年見ておけば良いというのが経験上の目安である。

執筆者:大石佳能子(株式会社メディヴァ)