ヘルスケアの「明日」を語る

医療機関の再生に向けて(1)

2009.04.21

医療機関の経営環境になにが起きているのか?

 

①医療機関の経営環境悪化

 今さら言うまでもないであろうが、医療機関を取りまく経営環境は非常に厳しい。昨今は世界中の景気が後退し、各産業ともに非常に厳しい状態にあるため、医療機関の経営の厳しさが特に目立つ訳でもなくなったが、医療が構造不況業種であることには変わりない。ピーク時には約1万件を越えていた病院は、8000件台に減少した。純粋に消えてしまった病院数は1000件強であるが、再生案件となって持ち主が変わった病院数は統計的には捕らえられないが、感覚的には同数以上あるのではないかと思われる。

 診療所に関しては、新規開業と廃業による増減があるので、統計的には捕らえることが難しいが、感覚的には従来の「高齢による廃院」以外に「経営不振による廃院」が確実に増えている。筆者が医療専門のコンサルティング会社を興した約10年前には「病院は潰れても、診療所は潰れないもの」というのが常識であったが、最近は診療所の再生の依頼が結構舞い込むようになった。

②再生案件増加の原因

 では何故、医療機関は潰れるのか?診療報酬の切り下げが続き経営環境が悪化しているから。というのは、その通りであるが、それだけでは医療機関としては打ち手がなくなってしまうので、もう少し構造的に紐解いてみたい。筆者は、再生案件増加の背景に「マクロ的な要因」と「ミクロ的な要因」の2種類があると考える。

 「マクロ的な要因」は、経済環境や厚生労働省等の政策に依るものを指す。具体的例としては前述の診療報酬の切り下げがある。高齢化社会と経済成長の鈍化を要因とし、医療費財源の伸びに対し、給付必要額(医療費を使う人数、疾患数)が増えているため、診療報酬を切り下げることにより調整が計られたのであるが、個々の医療機関にとっては同一の行為に対する価格が下がった訳であるから、利益性は悪化する。

 もう一つの「マクロ的な要因」は医師、看護師等のスタッフ不足である。医師、看護師不足により廃院に追い込まれた、もしくは経営が悪化した病院は多い。スタッフ不足の原因は、そもそも医療職の養成人員が足らなかった(人口1000人に対する医師数はOECD平均の3人に対し、日本は2人)、という問題に加え、医療機関における労働環境の問題がある。当直の問題を始め、医療機関における労働条件は労働基準法に照らし合わせると違法であり、改善が求められる。しかしながら、現在の診療報酬下では、各種法令に合致した人数のスタッフを配置すると経営が成り立たないし、その人員確保の方法もないという悪循環に陥っている。その間にスタッフ側は過酷な環境に耐え切れず、辞めて行くため、ますます人員が足らなくなる。

 一方、倒産の「ミクロ的な要因」として頻繁に見られるものとしては、下記の3つがある。一つ目は「市場性の欠如」、二つ目は「経営能力の欠如」、三つ目は「不法行為」である。
 「市場性の欠如」とは、医療機関が行なった投資、もしくは掛けているコストに見合った売上が確保できない場合である。これは、競合する有力な医療機関が出現した場合、診療報酬体系が変わった場合等に発生する。ある意味では、その医療機関はその「使命」を終えたわけで、通常であればコンセプトを転換するべきであろうが、それが出来なかったケースである。

 「経営能力の欠如」とは、理事長もしくは院長が経営者としての資質を欠いていた場合である。これにはいろいろなパターンがあるが、多いのは、「過剰投資」(そもそも絶対回収不可能な投資を行なった)、「過剰拡大」(別の事業に手を出して失敗した)、「人心掌握上の失敗」(スタッフが離れて行った)等々である。一方、直接の原因が他の要因である場合も、再生案件に建て直し屋として入って行くと多かれ少なかれ前経営者の「経営能力の欠如」は見られるもので、コストは高止まりし、人心は荒れていることが多い。

 最後の「不法行為」は、主として事務長等スタッフによるもの(横領、持ち逃げ等)と、外部の第三者(詐欺等)によるものが多いが、収益性の高くない病院から理事長一族が多額の報酬をもらっていた場合や、体面を保つため必要な減価償却をしておらず建替え資金が確保できなかった場合、相続財産分与のために病院を担保に多額の借入を起こし返せなくなった場合等、広義の「不法行為」と言えるのではないだろうか。

③中小病院、診療所の今後

 医療機関の経営が益々厳しくなる中、中小病院、診療所としては「自衛する」しかないであろう。診療報酬改定や特定地域における医師、看護師等のスタッフ不足等の「マクロ的な要因」は避けることは難しい。しかしながら、「市場性の欠如」、「経営能力の欠如」、「不法行為」などの「ミクロ的な要因」は常識的なレベルで気をつければ避けることが出来る。避けるためにも、医療機関の経営者は、「医療だけ」に専念するのではなく、医学の研鑽を積むのと同じくらいアンテナを立てて、周りの動きと自院の立ち位置について認識を深めることが重要だと思われる。

第2回は再生案件の建て直しのコツを説明するが、再生案件にならないためのコツとしてもご一読頂けると幸いである。