ヘルスケアの「明日」を語る

少子高齢化社会の多様な暮らしを支えるコミュニティ資源としての注目医療サービス(6)

2006.07.01

第6回 星川SFビル・メディカルセンター

星川SFビル・メディカルセンターは単一の医療機関ではなく、複数の診療所が入った、いわゆるメディカル・モールである。相模鉄道で横浜から約5分、星川駅に併設して立地しており、星川内科外科クリニック、星川小児クリニック、星川眼科クリニック、やのクリニック(皮膚科)、たかはし耳鼻科、山本歯科医院の6つの診療所、星川小児クリニックが運営する病児保育施設と、日本調剤株式会社が運営する薬局が入っている。ビル自体は雑居ビルで、他の階にはマクドナルドや学習塾も入居している。

昨今の開業ラッシュと不動産景気で、メディカル・モールは注目を集めているが、実際運営に成功していると言われるところは少ない。モールは本来、統一的なコンセプトを持ち、コンセプトに合った基準を充たした店舗のみが入居しているべきものであるが、多くのメディカル・モールはむしろ「医療雑居ビル」であり、たまたまテナントが医療機関である、ということ以上のメリットを入居者にも来院患者にも提供出来ていない。医療機関が入居しているのはそれでもまだ良い方で、市場性を勘案せずにメディカル・モールを建築した結果、入居医療機関が決まらず歯抜け状態になったままのところも散見される。また、多くのメディカル・モールではモール内の診療所の連携が取れておらず、患者の取り合いをする結果、診療所同士がむしろ仲が悪いことも多い。

星川SFビル・メディカルセンターの場合、ビル自体は雑居ビルであり、各診療所の坪数、デザイン等はまちまちである。しかしながら、レベルの高い診療所が集まっており、それぞれの診療所がお互いを信頼しており、メディカルセンター内では非常に良い連携が取れている。ある先生は、「他の診療所が出したステロイドの使い方に対して、質問を投げかけたら、普通なら喧嘩になってもおかしくないにも関わらず、かえって双方で勉強することが出来た」と例を上げた。開設当初は無理矢理プライベートの集まりなどを設けたらしいが、都合も異なるし長続きしなかったそうである。その後はむしろお互いの医療レベルを認め合ったことと、患者さんのことを第一に考える理念が一致したことが連携を促進した。それぞれの診療所はそれぞれの理念を掲げているが、患者さんのために真面目に良い医療を提供するという姿勢は統一している。

同メディカルセンターは相模鉄道が建設、運営するビルに日本調剤がプロデューサーとなり実現した。日本調剤は、医薬分業の基盤がまだ出来ていなかった昭和55年に設立された調剤薬局の専門会社である。開業当時、厚生省は患者さんの安全と医療費の効率化を目指して医薬分業を押し進めようとしていた。しかしながら、診療所にとっては薬価差がもたらす経営的メリットもあり、院外処方への切り替えはなかなか進まなかった。また、医療機関が院外処方を選んだとしても、「一対一分業」が趨勢で、薬局に取っては経営的にメリットが低く、リスクも存在した。日本調剤の創業者である三津原社長は、一つの解決案としてメディカルセンターを設立し、4〜5件の診療所から院外処方を受けることを考えたのである。

メディカルセンターを開設するに当たって、日本調剤では病院勤務の医師に勧誘して回る。星川の場合も、「地域一番店になる」という気概で、ひたすら良い先生に集まってもらうよう努力したそうである。調剤薬局としては、処方箋を書いてくれる診療所を一日でも早く誘致したいところであろうが、かなり我慢をしながら勧誘して回ったということだ。平成元年夏に第一号テナントである眼科が入り、平成2年の4月に最後のテナントが埋まっている。計画からは実質2年が経過している。望ましいのは、「目線が高圧的でない先生」で、薬局に対等に話をしてくれる先生は、患者さんにも対等に話をしてくれて、評判も良い、そうだ。面会した結果、高圧的であったり、煙巻くような話し方をする医師に対しては、婉曲的に入居を断ったこともあるという。良い先生が集まり、お互いに信頼関係が出来、連携体制も出来上がると、実際「地域一番店」は実現可能で、星川の場合、同メディカルセンターの評判が良い結果、殆ど競合が増えていない。

各診療所や薬局もユニークである。星川内科外科クリニックの場合、一般内科と内視鏡専門の医師2名体制である。内視鏡検査は地域の評判が良く、指名で来る患者さんも多い。高血圧の患者さんが来たら薬だけで済ますのでなく生活習慣改善の相談に乗る、複数の診療所に掛かっていたら一カ所に絞るよう勧める(必ずしも自院とは限らない)、など患者本位の医療に努めている。

星川小児クリニックは、「患者(母親)教育」に力を入れている。例えば、子供の熱が出たからと言って、本当に医療機関に掛からなくてはいけないケースは少ない。むしろ、連れて来ることにより悪化させることも多い。本当に必要な薬は何か、何でこの薬をもらったか、ウイルスには抗生物質は効かない、等々について、看護師が診察の前後の時間で患者教育を実施している。看護師は単なる診療補助ではなく、医師とともに診察室に入り、その場で患者さんにお話もする。このため、看護師の人権費は嵩むが、看護師が居て余裕を持って患者さんに接することが出来る環境作りが患者さんにとっても大事だ、とのこと。一方、看護師のモチベーション維持のためにも、「患者さんの『ありがとう』を医師が独り占めしない」よう努めているそうだ。院長の山本先生は、診療所を越えた患者教育を実現するために「小児科に行こう」という本も出版している。

入居している医師によると、日本調剤は「質を大事にする薬局」であり、各診療所との連携も密にとっている。診療所に薬剤師が出向き、診察スタイルや医師の考え方を学んで来ることもある。例えば薬剤師が小児科の医師、看護師の薬に対する説明を理解することにより、同じ流れで服薬指導を行うことができる。最近では患者さんの負担を軽減するためにジェネリックの処方にも取り組んでおり、患者さんのコンサルティングやフォローも積極的にやっている。

インタビューに応じてくれた医師は、「良い先生であればメディカル・モールでなくても成功する。『ぶら下がり』の先生は、メディカル・モールでなくても成功するかもしれないが、他の先生にとっては単なるお荷物。」「各診療所の医師がお互い褒め合うことによって、患者さんは安心して二股が掛けられる。」「『あの先生なら間違いが無い』と思える医師が隣に開業している安心感は他には替えられない」とおっしゃっていた。患者さんも医師も安心出来るメディカル・モールが増えることを望みたいものである。