ヘルスケアの「明日」を語る

質の高い診療所をめざして

2006.05.19

日本の医療制度は世界に誇る優秀なシステムとして評価が高く、2000年にはWHOからも医療の質と平等性が世界一と評価された。しかしながら、国民皆保険とフリーアクセスを基本としている日本の医療制度は、大病院への患者集中とその結果の長い待ち時間という、患者満足度を下げる要因を招いたことも事実である。

今、保険財政が逼迫する中、病院に対し、平均在院日数を下げるとともに、外来人数を絞り込み、紹介率を上げる誘導策が打たれ、大病院から診療所への患者の流れが半ば強制的に行われている。これは、病院というものが本来固定比率が高く、他の業界で言う装置産業に酷似しており、経済的な効率性を確保するには高単価・高回転の確保することが望ましいからである。外来は入院に比べ治療密度が低く、病床を含めた病院の設備を使うことが少ないため、同じ資源(医療スタッフの時間)を外来でなく入院に振り分けたほうが全体的な経済効率は向上する。

病院の外来が削減され、診療所に振り分けられることについて批判も多いが、これはむしろ患者にとって朗報ではないか、と思っている。かなり以前に米国で行われた調査*を見ると、体の異常を感じた対象者750人のなかで、専門医の治療が必要であった者は5人(0.6%)、大学病院における治療が必要であった者は1人(0.1%)に過ぎなかった。要は残りの99%は、自然治癒したか、ファミリードクターによるプライマリケアを求めていた患者だったのである。

ファミリードクターは、本来患者と医師との間で「患者の生活環境や生き方」を背景として考慮に入れた治療を行うことが望ましいと言われている。これは聞いた話であるが、患者を専門医に紹介する時、その患者は「『先生』的態度で接する医師」を求めているか、それとも「『友達』的態度で接する医師を求めているか」まで考えて紹介するそうである。このような肌理の細かさは、診療所ならでは、のことである。
 患者の顔が見える医療は、患者から見ても顔が見える医療である。大病院のように多くの医師が存在している環境では、医師の技能は分りにくい。反対に診療所の場合は、医師の顔(能力、対応)は概ね見えている。内視鏡や大腸ファイバー等痛みの伴う検査の場合など、診療所で受診するほうが患者にとって安心感は高いだろう。

政策的な病院から診療所への患者誘導のなかで患者が「診療所ならでは、の良さ」を実感するようになると「掛かりつけ医」を持つ患者も増え、全体的な患者満足度は上がるであろう。特に近年の開業志向の向上により、かなり高度な専門医療を担う医師が病院と同等の設備を持って開業する例も増えている。専門治療を要する患者が安心して掛かれる体制が診療所にも整いつつある。

一方、患者の信頼感に応え続けるためには、診療所の医師側もブラッシュアップ研修などによる自らの継続的な教育に力を入れるとともに、他院とネットワークを構築し、常に最適な医療を最適な体制で提供できるように準備しておかなくてはならない。病院から流れてくる要求度の高い患者に応え続けられるかが、診療所の将来を定めると思われる。


執筆者:大石佳能子 Kanoko OISHI
株式会社メディヴァ 代表取締役。大阪府出身。幼少時代をニューヨークで過ごす。大阪大学法学部卒、ハーバードビジネススクールMBA、マッキンゼー・アンド・カンパニー(日本、米国)のパートナーを経て、メディヴァを設立。