ヘルスケアの「明日」を語る

医療機関のブランド戦略

2006.03.19

ブランドとは、「高価であること」や「ネーミング」や「マーク」を意味するものではない。消費材の分野で「ブランド」は「売り手である企業の理念に基づいて、競合他社と区別され、かつより高い付加価値を生み出すことを意図して設計された商品・サービス」として定義され、「企業とその買い手である消費者によって共通に認知される」ものとされる。

医療機関におけるブランドも同様に、「医療機関とその関係者(患者、スタッフ等)の『継続的な共通認知』」、すなわち「医療機関の理念に基づいて、より高い医療サービス価値を生み出すことを意図して設計された施設、プロセス、システムと、その結果患者が感じる共通認知」として定義される。

ブランドを構築することは「価値」(=ブランドコンセプト)を構築することと同義であり、そのためには「価値の選択」、「価値の提供」、「価値の伝達」の3つを行う。「価値の伝達」では、ターゲット像を明らかにすることにより「価値」を定義する。医療機関の場合、その立地する地域によって患者に求められるものは異なり、都内の病院密集地にある場合と地域医療を担う立地にある場合では選択すべき「価値」は異なる。「価値の提供」では、求められる「価値」に合致するよう、どういう病院にするのかを定義する。具体的には、施設内容、診療科目、専門性、技術レベル、診療プロセス、スタッフ教育、院内システム、サービス体制等、医療サービスの内容とその提供体制である。「価値の伝達」は、提供する「価値」の存在を患者に伝えるマーケティングであるが、いわゆる広報や広告宣伝だけでなく、施設のデザインや差額ベッドの料金設定、スタッフの対応等の活動も伝達方法となる。

ブランドが形成出来た場合、医療機関にとってのメリットは大きい。まず医療機関の診療内容や技術レベルに合った患者が集患できるため、医療圏が広がる、入院・外来単価が上昇する、病診連携が促進する等が実現できる。また、ブランドが院内の共通認知となるため、スタッフに理念が浸透し意識が上がる、医療リスクが下がる等の病院運営上のメリットに加え、薬剤・機材のメーカーとの事業提携の機会が拡大する、資金調達田容易になる等付加的なメリットも見込める。

患者の求める「価値」であるが、実は国民皆保険制度下でも患者の求めるものは多様化している。ケアレビュー(メディヴァの関連会社;病院における顧客満足度調査を実施)の調査結果によると、「なるべく安い治療費で早入院を済ませたい」層、「治療方針は医師に任せたい」層、「高い治療費を払ってでも、最新技術・設備、早い治療、精神的ケアを求める」層等、患者の価値基準は異なる。また、病院によって各層の集患度合いは異なる。原因は、地域特性と病院の集患能力の差である。「価値」の定義を行う場合、現病院がどの層の患者を集めているのかと、今後どの層の患者に注力するのかを定量的に計りながら検討することを要する。

「価値の伝達」(マーケティング)については、対象によって方策は異なる。対象は、連携先(病院、診療所、救急隊等)、患者(近隣、遠隔)、スタッフ(医師、OB、看護師等)、提携先(薬剤メーカー、資金調達時の投資家等)等であるが、医療機関のブランドに即したメッセージを広告宣伝、広報活動、営業、学会発表等を通して訴求するとともに、近年はインターネットの積極的な活用を検討すべきである。また、口コミも単に発生するのを待つのではなく、口コミに乗り易い情報を発信することにより、ポジティブなコントロールを図ることができる。

ブランドというと、グッチやルイヴィトンのバッグを思い浮かべ、医療機関にとって関係ないもの、と思われがちであるが、スタッフの行動がそのまま商品であるようなサービス業にとって、ブランドは生命線である。特に医療機関の場合、スタッフが自院のブランド(=「価値」)を理解し、それに沿った行動をするか否かによって患者さんに与える印象だけでなく、提供出来る医療、看護レベルにも影響を及ぼす。病院のブランドは病院の戦略に密接に関連しており、聖路加国際病院や慶応大学病院のようないわゆる「ブランド病院」だけはではなく、全ての医療機関が課題として考えるべきものではないか、と思われる。


執筆者:大石佳能子 Kanoko OISHI
株式会社メディヴァ 代表取締役。大阪府出身。幼少時代をニューヨークで過ごす。大阪大学法学部卒、ハーバードビジネススクールMBA、マッキンゼー・アンド・カンパニー(日本、米国)のパートナーを経て、メディヴァを設立。