少子高齢化社会の多様な暮らしを支えるコミュニティ資源としての「注目」医療サービス(2)

2006.01.01

医療法人鉄蕉会 亀田総合病院(千葉県鴨川市、31科目、亀田信介院長)

東京駅から特急で1時間半。房総の山に囲まれ、太平洋に面した美しい自然の中に亀田総合病院は在る。安房鴨川の駅に降り立ちタクシーで10分ほど走り、海に向かって視界が開けた当たりに、サーモンピンクの巨大リゾートホテル風の建物が2塔建っている。一方が亀田総合病院、もう一方が同病院のクリニックタワーである。

亀田総合病院が属する安房医療圏は人口が約15万人、65歳以上人口比率は28.8%と極めて高く、千葉県全体の比率である15.7%の約2倍であり、高齢化・過疎化が進行している典型的な地方医療圏である。しかしながら、人口あたりの医師数を比べると安房医療圏は333人、人口比で比べると、千葉県全体の約1.5倍となる。

筆者が亀田総合病院を訪問した今年の時点で、同病院グループの医師数は229人であった。上記のマクロデータとは時期は異なるが、千葉県より比率的にはかなり多い安房医療圏の医師のうち、大部分が亀田総合病院とそのグループに所属していることとなる。

亀田総合病院は、2005年4月に新病棟を建て、260床を移転させた。新棟の病室は全室オーシャンビューの個室である。前述のとおり非常に目を引く建築物であり、そのハードとアメニティは「これが病院か」と驚かされる。一番良い5万円の部屋は60平米もあり、オーシャンビューのバスとスイートを備えている。1階にはタリーズコーヒーショップがあり、13階には都心のホテルと同等の雰囲気と料理を備えたレストラン(ピアノバー、天ぷらと鉄板焼き、結婚式もできる宴会場)がある。

しかしながら、単に新病棟のハードが優れているというのであれば、土地が安価なリゾート地に建ったバブル時代のホテルと変わらない。この病院の優れた点は、これからの時代の患者に求められる、①高度な医療、②患者視点でのサービスと、③それらを継続させる仕組みと風土、を兼ね備えている点である。

亀田総合病院の医療レベルは高く、1985年には民間の医療法人では全国初の第3次救命救急医療施設として指定された。病院の目の前にはヘリポートも存在し、近県や離島からも患者が搬送されてくる。例えば産科では、県内で唯一の周産期センターとなっており、NICU(新生児ICU)数は12と稀な規模となっている。手術室は16あり、集中管理されている。 

亀田総合病院は、電子カルテの開発運用を初期から手がけていて、黎明期を支えた。電子カルテの活用により医療リスクは回避され易くなり、会計や薬剤処方等の院内のオペレーションは効率化する。また、患者へのカルテ開示にも積極的で、全室に備えられたベッドサイド端末では、自分のカルテや検査結果の閲覧が出来る。この端末はインターネットにも接続できるので、自分の病状についてその場で調べることも出来る。

この高度医療を支えているのは、亀田信介院長を初めとした経営者の医療への信念である。「良い医療の提供は、良い人材の確保から始まる。人材はコストではなく、資産である」と言い切る亀田院長は、優秀な医師をヘッドハントするために全世界を飛び回る。「太平洋に面して、アメリカに一番(物理的に)近いのは鴨川」と冗談を言いつつ、アメリカの医療の良いところを取り入れながら、電子カルテ等には独自の投資を続けた。電子カルテ分野では、アメリカに遥かに先じている。

患者視点でのサービス提供については、「病人は病気であること以外は、一般の人と同じ生活をしてしかるべき」という信念があり、入院中も快適で便利な環境が提供されている。ベッドサイド端末からは、各自の病院食のメニューが2時間前までは選択可能で(病状から選択が禁止されているメニューは選ぶことが出来ない)、フレキシブルなサービスを実現させるために厨房を12に分けてメニューごとに作業させている。各フロアにファミリーダイニングがあり、簡単な食事を作る場所も確保されていて、患者が家族や友人と一緒に家庭料理を味わうことも出来る。

病室に家族が泊まることも出来、ソファーベッドが備え付けられている。廊下には患者のプライバシーを重視して名札の貼り出しを廃止した。患者の名前を貼り出しているのは「病院にとって便利だから」であり、「患者にとってメリットがあるから」ではない。その代わりに、担当医師・スタッフの名前が記載されており、横の壁の扉を開けると患者の名前が書かれている。

260床のうち100床は差額をとらない個室である。また個室料は1万円が中心で、地域住民の経済的な現実に配慮している。

最上階にあるのは実は霊安室で、全面の窓ガラスからは青い空と広々とした海が見渡せる。ここで遺族は故人と最後のお別れをし、「出来る限りの事はした」納得感という、最大の「癒し」が実現されるよう設計されている。

従業員の応対は極めて良く、目を見て、笑顔で、はっきりとした声で挨拶をする。同病院の理念にもある「患者様のために全てを優先して貢献する事」が徹底して貫かれている。

亀田総合病院の場合、初めはハードに目を奪われるが、それを運営可能としている仕組みが素晴らしいのであり、一貫したユーザー(患者様)視点のマインドがそれを可能ならしめていると思われる。病院の場合も他のサービス業と同様、経営の意思は細部に宿るもので、大規模な施設にも関わらず、医療だからこんなものだ、と妥協せず隅々まで手を抜かずにコンセプトを追い求めている。選択制の食事を考えるのは簡単であるが、実現には莫大なエネルギーが必要である。他にも豪華な病院はあるが、亀田総合病院の場合、どういう入院体験をしてほしいか、がはっきりとイメージされている気がする。

またこの成果が経営結果にも反映されている。実際、高度医療を求めた患者が広範囲で集まると、病床単価は向上し、差額ベッド代に頼らなくても経営的に十分成り立つ。新病棟が建つ前も千葉県全域から患者は来ていたが、今年度は東京や外国の患者が顕著に増えているそうである。医療制度改革が進む中、今後急性期医療の理想型を目指した設備とノウハウが亀田総合病院には詰まっていると感じさせられた。

掲載 月間シニアビジネスマーケット2006年1月号