ヘルスケアの「明日」を語る

少子高齢化社会の多様な暮らしを支えるコミュニティ資源としての「注目」医療サービス(1)

2005.12.19

少子高齢化社会の多様な暮らしを支えるコミュニティ資源としての「注目」医療サービス

プラタナス・ネットワーク(医療法人プラタナス用賀アーバンクリニック)

患者の立場から希望が言えるとすると、どういう医療機関が欲しいだろうか。サービス業としての医療はどう運営されるべきだろうか。プラタナス・ネットワークでは「患者視点」のホームドクター・クリニックを目指している。

医療法人プラタナスの本院である用賀アーバンクリニックは2000年の12月、世田谷区用賀駅前1分の立地に開設された。現在の医師体制は、常勤医師が6名、非常勤医師が4名で、内科、小児科、外科、脳神経外科、消化器科、循環器科、皮膚科、東洋医学等8科目を標榜している。開院時間は、朝8時から夜7時(開院当初は8時)で、昼休みも開いている。

世田谷区は全国でも有数の医療機関密集地である。東京医療センターや関東中央病院等の大手病院とともに、診療所も1000軒ほどが存在する。一方、患者は健康・医療に関心の高い層が多く、海外生活を経て日本の医療サービスに不満を持っている方も多い。医療サービスの供給者も多いが、患者の要求度も高く、必ずしも患者満足度は高くない。

筆者は、用賀アーバンクリニックの開院当初から加わっている。サービス業や小売業の例に習って、完全な「患者視点」に立った場合、どういうクリニックが実現できるか、を数名の医師とともに考えた。その結果、用賀アーバンクリニックのコンセプトは、①ホームドクター、②カルテの完全開示、③サービス業とした。

ホームドクターは家族全員のかかりつけ医であり、家族のなかには高齢者もいれば、乳幼児も居る。病状には生活習慣病もあれば、アトピーもあり、怪我もある。このため、本当の意味でホームドクターとなるには「内科」、「小児科」、「外科」と科目別に分かれているのは不便で、いわゆる「総合診療」が実現できないといけない。ところが日本の医学教育は専門特化し、一つの分野を深く研究し極めることを目的としているので、「総合診療」を学ぶ機会がない。アメリカ式の教育体系を採用している一部の病院では限定的に養成講座を持っているが、卒業までに数年掛かる。このため、用賀アーバンクリニックでは各科の専門医が密接に協力して「総合診療」を実現する方式を採用した。各科の専門医が密接に連携するためには、まず患者情報の完全な共有化が必須である。このために同クリニックでは電子カルテを採用した。医師同士でも読みにくい紙カルテの弊害を、電子化することで無くすことができる。また画像(レントゲンの写真、傷口のデジカメ写真等)も貼付けることが出来るので、リアルな情報を共有化することも可能となる。

電子カルテを用いると、医師同士、スタッフ同士だけでなく、患者に対しても情報を共有化できる。診察中は、画面を見ながら症状、病名、処置、処方を確認しながら診察を行う。診察が終わり「印刷」ボタンを押すとカルテがプリントアウトされ、そのまま渡すと「カルテの完全開示」が実現する。カルテの中には「熱が40度に上がったら、、、」等の指示内容も書けるので、病状が変化しても患者は安心だ。プリントアウトされたカルテを保管している患者も多いが、本当に欲しいとき(出張時に調子が悪くなったとか)に対応して、インターネットを通して「いつでも、どこでも」自分のカルテが閲覧できる仕掛けも作った。同様な仕組みを用いると、患者が病院に転院したときにカルテ内容を転院先の病院と共有化することもできた。

サービス業の実現であるが、レストランと同じで「料理が美味い」(医師の腕が良い)だけでは不十分で、「快適な環境」、「利便性」の実現を目指した。まずクリニックの環境であるが、できるだけアットホームな環境にするために、家具も医療用ではなく一般家具を用いた。ベビーカーや車椅子がそのまま玄関から入って来ることが出来るように、スリッパに履き替える玄関ではなく、完全バリアフリーとした。どの病院でも問題となるのは待ち時間の長さであるが、「風邪・花粉症クイックライン」を導入した。「クイックライン」は銀行のATMラインと同様な考え方で、かかる時間の長い人と短い人を同じ列に並ばせると、平均的な待ち時間は必ず長くなるので、これを分ける、という考え方に則っている。風邪や花粉症の人は長い時間掛けて診察してもらうより、出来るだけ早く薬をもらって帰りたいと思っている。予め問診票を送ってもらい、病状の予測をたて、予約を取ってもらえば最短7分で受付から会計までを済ますことが出来る。もちろん医師が診察をして、「インフルエンザかな?」と重症を疑った場合は、患者は「クイックライン」から外れてもらうこととなっている。他にも、HPで混み状況を公開することにより、できるだけ混んでいない時間に患者を誘導することや、受付で名前を書いてもらい、診察開始時間に戻って来てもらう、レストランの順番取りのような仕組みも導入した。

用賀アーバンクリニックは一昨年法人化し、医療法人プラタナスとなった。「プラタナス」はプラタナスの木の下で、医療の祖であるヒポクラテスが弟子たちに「患者のことを第一に考えなくてはいけない」と教えた故事にちなんでおり、アメリカでは「患者中心主義」の象徴とされている。同医療法人では、現在、本分院の他、在宅医療部(老人ホームおよび一般患者への訪問診療)、健診・透析センター等を東京神奈川で展開している。年末には、世田谷区でホスピス機能を持つ有床診療所も開設する。また、医療法人プラタナスの分院ではないが、当社が開業を手伝って、その後運営を支援している約20カ所のクリニックもプラタナス・ネットワーク(仲間たち)として、「患者視点」の理念を共有化し、新しい取り組みを試みている。例えば、老人ホームへの訪問診療実施時には、毎月一回カルテのサマリーを作成し、家族に送り、介護スタッフとも共有化することにより質の高い入居生活の実現を支援している。

今後は携帯電話を用いた診療予約、メディカルコンセルジュによる患者の転院先紹介、患者セグメント別メールマガジンやSNSを用いたコミュニティサイトの運営、予防接種お知らせサービス等の実現を計画している。医療をサービス業としてとらえた時、まだまだ出来ることは多い。今後ますますニーズが高まる介護分野との連携においてもやれることは多い。また、例えばメディカルモール事業も、このようなクリニックが、アンカーテナントとして入居することにより立ち上がり易くなるのではないかと思われ、各種分野への発展性が考えられる。


執筆者:大石佳能子 Kanoko OISHI
株式会社メディヴァ 代表取締役。大阪府出身。幼少時代をニューヨークで過ごす。大阪大学法学部卒、ハーバードビジネススクールMBA、マッキンゼー・アンド・カンパニー(日本、米国)のパートナーを経て、メディヴァを設立。