ヘルスケアの「明日」を語る

病院資金調達の円滑化に向けて(3)

2005.11.30

前回までに、病院向けプロジェクトファイナンスの説明とそれを実行するために必要な5つのステップ(①客観分析、②戦略策定、③事業計画、④組織・業務改革、⑤指標管理)のうち、前半のステップとなる客観分析と戦略策定について述べさせて頂いた。以下に、策定した戦略をいかに事業計画に落としこんでいくのかと、それが最終的にファイナンスに繋がるまでの流れを説明させて頂く。(全体の流れを記した図表をご参考)

1)プロジェクト・ファイナンスの後半ステップ

1.事業計画策定

戦略的方向性が定まったのち、これを具体的な事業計画に落とし込んでいく。 
実際は、戦略が決まっても現実の客観分析との間には大きなギャップが見られることが多い。事業計画を策定する上では、戦略を具体的な数字に落としこみながら、実現性可能性やギャップを埋めるまでのステップについての見当を行なう。

まず、事業計画の売り上げサイドに関する数字を検討する上では、「患者属性」と「患者フロー」という概念が重要となる。「患者属性」とは、患者の質のようなもので、必要な医療の内容と医療密度の高低を意味するが、具体的には科目別、主要疾患別、年齢別、診療圏別構成を検討する。これは戦略的注力分野を具体的に数字に落としたもので、例えば現在のベースの患者層が透析を中心としたものであれば、腎疾患の他にその結果として発生する脳血管障害、心疾患や原因となる糖尿病に注力することが妥当であり、患者数のなかでも大きな構成比を占める計画を立てるのが適当と思われる。一方、本当にこの分野の患者が集患できるかに関しては、地域における現在および将来の患者数予測およびシェアからクロスチェックしながら検討する。

「患者フロー」とは、具体的にそれらの患者がどこから来て(「入り口」)、どこに行くのか(「出口」)、の動態状況である。装置産業的な特徴を持つ病院は、高い固定費を抱えており稼働率を確保することが重要で、しかも自院の医療設備・スタッフにマッチングした患者比率が高いほど効率が良い。このため、絶えず「入り口」から適切な属性の患者が流入し、ある一定期間内に「出口」から退院し、高い回転率を確保することが望ましい。特に、一般病床の場合は、高度な医療が必要となる患者が入り、病床単価が下がる前に退院していくこと(平均在院日数の短縮)が高収益確保の源泉となる。しかしながら、在院日数の短縮をいたずらに追い求めることは医療の質、患者満足の低下を招き、長期的には収益を押し下げる要因となりえる。このため、適切な期間での退院とは、その期間で治す能力を病院が持つ、もしくは責任をもってバックアップしてくれる連携先を確保していることが条件となる。

「入り口」に関しては、3種類のルートしかありえない。1つ目は自院直接(入院の場合は外来から)、2つは紹介(他病院、診療所、施設等)、3つは救急車である。このなかで、紹介と救急車を経由した患者フローのほうが自院直接より医療密度が高いことも多く、ある種のスクリーニングが掛っているために、病院にとって得意な科目、手技を求めている(病院の施設・設備を有効活用できる)患者である確率が高い。このため、紹介、救急ルートの確保は単に、紹介率を加算算定のために上げるためだけではなく、本来的に病院の果たすべき役割を実行しながら、生産性を向上させるために不可欠となる。

「出口」に関して3つのルートが存在する。1つ目は治療退院で、2つ目は転院、3つ目は在宅医療である。「入り口」からの患者フローが十分確保できていても、「出口」における患者フローが確保できなければ、稼働率は上がっても、回転率は確保できない。地域のなかでの自然と転院先の病院(療養型病床群、医療密度の高くない一般病院等)との役割分担が明確になるまではまだ時間が掛ると思われるため、多くの病院が今、困っているのは、質の高い「出口」の確保であると理解している。地域連携に力を入れているある病院の場合は、いくつかの協力先病院を選定し、院内パスを越えた地域パスを作りこむことにより医療機関を越えた地域での取組みを強化している。同様に、在宅医療の仕組みを構築もしくはサポートしている医療機関も近年多くみられる。いずれにしても、どういう「患者属性」に関して、いかなる「患者フロー」(「入り口」、「出口」)を確保するかが事業計画作成のポイントなる。

上記収益サイドの検証に対して、コストサイドは「施設効率」と「費用効率」の2つに視点で事業計画を検討する。「施設効率」とは、病院の主要な施設の稼働率・回転率を指しており、具体的には大きな項目として、「病床」、「高度検査・治療機器」、「設備(リハビリ等)」をいう。病床に関しては、前述のように患者属性、患者フローを検証することにより確保できる病床稼働率、回転率をシュミレーションするとともに、現状からの改善余地の有無を現状の患者に関する詳細分析を行なうこともある。例えば、ある一定期間に特定科目に入院した患者を分析してみて、在院日数別に並べてみると、全体としての平均在院日数は25日でも、20日以内で退院している短期患者と60日を超える長期患者の群に分かれることがある。それぞれの群の患者属性と患者フローの詳細に検討するより、クリティカルパスの見直しや退院先の整備によりどの程度の在院日数の短縮化が可能なのか、またその場合、患者単価・病床回転率はどの程度上がるのかが検証できる。

一方「費用効率」の問題であるが、病院にとっての最大のコストは人件費であるが、人件費効率を良くすることは医療の質を左右しかねないため、ここの部分のシミュレーションには極めて慎重にならざるを得ない。ただ、ベンチマーキング調査等のデータを使いながら、総額人件費を下げない場合も、生産性の向上によってどの程度の人件費率向上のポテンシャルがあるかシミュレーションできる。

その他の、医療材料費、医薬品費に関しては、ベンチマーキング調査の結果を参考にしながら、診療科目等の病院特性を鑑み、削減ポテンシャルを検討する。ベンチマーキング調査では、今年から、いくつかの物品に関しても購買価格を聞いているので、全体と比べてどの程度高い価格で買っているか、反対に言えばどの程度コスト削減の余地があるかも推定できるような設計となっている。

以上、事業計画を策定する際に実行する各種分析・シミュレーションについて書かせて頂いたが、このような詳細な分析を行うことによって、設定された事業目標がどの程度到達可能なのか、何がぶれると問題が生じるか、実現のためには何をしなくてはならないかが明確になってくる。この結果を病院が目指す姿を実現するまでのアクションプランとして具体的に表現し、進捗状況を客観的に管理するために指標を決め込むことにより、事業計画は単なる机上の数字ではなくなる。

2.組織・業務改革

いくら素晴らしい事業計画が出来たとしても、最終的にそれを実行に移すのは個々人であるため、事業計画実現に向けた病院内の組織作りが不可欠となる。多くの場合では、事業計画策定を目指した分析段階からスタッフに対しヒアリングやアンケートを行うことにより、病院として目指すもの・目指してほしいもの、自分のキャリアとの連動性、組織課題等を抽出する。医師に関しては実現段階における成功・不成功を左右するため、特に力点を置き、日常の医療提供の場において感じている課題を把握するとともに、「共に戦略と実行方法を考える」というスタンスに立ってもらう。医師は本来的には科学者的なトレーニングを受けているため、私どもが提示する客観的情報、特に数値データに対する受け止め感度がよく、他の業界の人と比べても働きやすい人が多い。

ただ、戦略と事業計画の実行段階になると、単に意識の向上と方向性の理解では実際の活動には結びつかないので、組織・業務変革を伴うことが多い。組織設計上、重要なポイントは、戦略・事業計画を達成する上で組織の各構成員のやるべきことと責任・権限を明確にすることと、評価がその使命達成に連動することである。多くの病院では場合、日常的な診療における責任・権限は暗黙値として定められているが、中長期の実行内容におけるそれは存在しない。また、評価・報酬が全く連動していないため、意識の高い者がかえって報いられないことが、まま見られる。改革に成功したある病院の経営者が、「医局人事のローテーションで派遣されて来る医師こそ、組織の人員である何年間を組織の目標に向けて精一杯頑張ってもらうためにも、使命・責任・権限の明確化と評価(できれば報酬)の連動が不可欠」と言っておられたが、その通りだと思われる。

また、実行組織と同時に経営側のガバナンスの仕組みを見直す必要が生じることもある。

ガバナンスとは元々企業の健全な運営を促進するために発生した概念で、組織(企業)が公正な手段で収益を上げ、株主を初めとした利害関係者に対して長期的に利益を分配するための制度をいう。非常に簡単に言い換えると、企業経営者が会社および一部の利害関係者の暴走(短期的な利益を追求する等)を食い止めるための仕組みであり、社外取締役の導入により第三者の有識者の意見を経営に活かす、株主に代行して監視してもらう等の運用方法が実施されている。

医療の世界では、企業と異なり、株主利益が最終目標とはなりえないので、ガバナンスは地域において長期的に必要とされる質の高い医療を提供し、患者利益に貢献するための仕組みとであろう。医療法人の場合、理事会、理事長、理事等は存在するが必ずしも運用上の役割は明確でなく、第三者が入っていることも少ないため、経営者に進言する、もしくはけん制する仕組みが希薄である。株式会社のガバナンスの仕組みもけして完璧ではなく、現在は過去の反省に立って仕組みの再構築を行っている時期であるが、医療法人におけるガバナンスの仕組みは更に改善の余地があると思われる。私どもが関わっているなかでも、最適なガバナンス体制を構築したと思える例はないのであるが、事業計画を長期的にぶれないで実行するためには、非常に重要な要素となってくるため、医療界に合致した方法を模索をしている最中である。

3.指標管理

事業計画の進捗状況をチェックする仕組みとしてKPI(Key Performance Indicator)による指標管理がある。KPIとは収支に影響を与える主要なインディケーターを指して言い、病院の果たす機能および事業計画実行のフェーズによって可変である。また、KPIは結果ではなく、そこに至るプロセスを把握するためのものであるが、可能な限りシンプルであることが望ましい。

簡単に説明するために、診療所の例を使うが、新規開業の診療所を想定すると当面赤字であるのは目に見えているので、赤字の度合いに注目して指標管理をしても意味がない。むしろ順調に計画通り推移しているかを把握するためにまず注目するのは、新患登録数や、一日当たりの患者の伸びであろう。一方、開業して十年も経った診療所の場合は、ある程度患者数は安定していることが想定されるので、患者単価やサービスレベルを計る平均待ち時間に注目するほうが意味を持つ。

病院事業におけるKPIとしては、病床利用率、平均在院日数、病床単価、紹介率等、今でも日常的に病院経営管理で使われているものの他に、部門別損益等の高度なもの、救急車来院率であるとか、健康診断から精密検査・治療入院への転換率、連携先医療機関・施設からの入院数等、各病院の戦略・事業計画に沿ったものもなど各種存在しうる。

KPIは経営目標に対する進捗状況を計るとともに、職種毎、部門毎、最終的には個人の行動レベルまで落とし込むことにより行動管理や評価に使用することが可能である。また、業界の詳細状況が感覚的に分からない第三者(金融機関等)とのコミュニケーションのツールとして使うこともできる。
 
2)ファイナンスの実行

以上、プロジェクト・ファイナンスの際病院側で検討して頂く項目について述べたが、実際の資金提供額は、想定される投資対効果と返済リスクを勘案して決定する。ファイナンスのスキーム自体は、SPC型等の比較的新しい手法をとることも可能であるが、従来型の融資の形をとることもある。要は対象となるプロジェクトの事業計画に十分客観的で、データの裏付けがあり、実行計画が堅固で、指標管理のプロセスがしっかりしていればリスクは最小限に抑えることが可能であるため、スキーム自体は問わないというスタンスである。

実際の総額資金提供金額は30~100億と大きな規模になりがちで期間も15年を超えることが多い。既存債務がある場合は、医療法人が新たに病院を買収した場合等、容易にキャッシュフローを切り分けられる場合を除き、新規投資部分だけをプロジェクトとしてファイナンスを組成するのではなく、新規ファイナンスの一部として既存債務の全面リファイナンスを行なうことが多い。既存病院の施設更新・設備拡充に関しては、投資を通して競争力を増強し、新規債務と既存債務双方の償還に当てることを考える。この場合は、既存債権者を巻き込んで、リファイナンスのスキームを検討することになる。

ちなみに、病院業界の特性として、病床規模に応じてある一定額の収入は最低限確実のものとして読めることが多い。このため、総額資金提供金額のなかで、返済リスクが高いものと低いものが同時に存在することになる。何社かの債権者が協調して資金提供を行う場合、全てのプレイヤーの条件を同一のリスク・リターンに設定する必要はなく、リスクは低い(先に償還される)がリターンも低いものを求めるプレイヤーと、リスクは高い(後に償還される)がリターンも高いものを求めるプレイヤーを組み合わせることも可能であると考える。銀行は一般的には低リスク・低リターンを求める一方、商社等、高リスク・高リターンを求めるプレイヤーも存在するため、組み合わせることによりファイナンスできる病院事業の幅は広がると考えられる。

実際の運用上はファイナンスのスキームより重要なのは事後管理の仕組みであり、担保等をバックにした資金提供とは異なり、返済の可能性は事業計画の実現性のみに掛っている。このため、これまでの銀行による融資の場合のように「結果オーライ」と悠長に構えることはしない。事後管理の運営においては、結果としての収益状況やキャッシュフローだけではなく、KPIのモニタリングを通して病院の機能の健全なる運営、事業価値の保全を確認する。また、計画通りに進捗していない場合や、医療制度の大幅な改定等前提条件に根源的な影響を与える変化が起こった場合は、戦略、事業計画、管理指標をフレキシブルに見直すなどの事業価値の劣化を防ぐハンズオンのパートナーとして機能する場面が増えると思われる。

3)コンサルティング会社の役割

プロジェクト・ファイナンス自体は当社のようなコンサルティング会社が主体となるものではなく、あくまでも病院が主体となるものである。当社は、コンサルタントとしてのノウハウを活かして、このプロセスを側面支援する役割である。ただ、このプロセス自体が、病院に一般企業並みの、場合によっては以上に高度な戦略・事業計画構築能力と実行・管理能力を求めるものであるため、側面支援とは言いつつ、果たしうる役割は大きいと感じている。実際、当社がこのプロセスに参加させて頂いた例では、病院をクライアントとして、病院側の一連の活動を支援させて頂いている。

また今後の役割であるが、病院の場合、経営者もしくは経営者を直接サポートする企画しスタッフ、管理者の層が薄いため、後臨機応変に対応しながら、実行を確保することが困難になる場合も多いと思われる。このような事態を未然に防ぐため、病院内の人材を経営者、企画スタッフ、管理者として教育する役割、および病院に対し、そのような能力を持った人材を紹介・派遣する役割も果たしていくことも必要になるのではないか、と考えている。

米国では医療と経営の分離が原則で、医療機関内の経営部分は経営の専門家(医師であることも、ないこともあるが、いずれにしても専従者)が存在している。また、専従の経営者が雇用できない規模の病・医院に対しては、PPM(Physician Practice Management)という業態があり、病院の経営部分を受託している。日本の医療界も複雑性・困難性を増す中、PPMのような業態が必要になってきているのではないか、と感じている。

4)最後に

 これまで、病院が資金調達においてプロジェクト・ファイナンスという手法を選択した場合、必要な要件とステップについて記載させて頂いた。この流れのなかで私どもが一貫して提唱しているのは、組織スキルの向上とそのために不可欠な客観的な分析と指標管理の手法である。ベンチマーキングの手法も戦略・事業計画策定・事後管理段階における各ステップも病院に従来から見られる「勘と経験に基づく経営」からの脱却と、論理的・科学的思考に基づいた経営への転換を意味する。

銀行を始め多くの資金提供者にとって病院業界はブラックボックスである。資金提供者側も当然知識・スキルを身につけ、病院経営を正しく評価できるようにならなくてはいけないが、まずは病院側が論理的・科学的に経営意思を組み立て、説明できる能力を持つことが早道ではないか、と考える次第である。

医学書院 「病院 第63巻 第3号」
特別寄稿 「病院資金調達の円滑化に向けて (後編)」


執筆者:大石佳能子 Kanoko OISHI
株式会社メディヴァ 代表取締役。大阪府出身。幼少時代をニューヨークで過ごす。大阪大学法学部卒、ハーバードビジネススクールMBA、マッキンゼー・アンド・カンパニー(日本、米国)のパートナーを経て、メディヴァを設立。