ヘルスケアの「明日」を語る

病院資金調達の円滑化に向けて(2)

2005.11.30

今回はプロジェクト・ファイナンスの具体的実行方法について述べさせて頂く。本稿は、主として資金調達を検討されている方々を対象としているが、そうでない場合も、目を通して頂けると幸いである。というのも、プロジェクト・ファイナンスの実行方法が病院が今後身につけなくてはならない経営能力、ガバナンス、情報公開の実行方法と近似であるため、役に立つのではないかと感じている。

 

1)プロジェクト・ファイナンスとは

前回で書かせて頂いたとおり「プロジェクト・ファイナンス」とは「特定の事業(プロジェクト)」に対するファイナンス手法であり、償還原資を調達主体(病院)の信用力に依存するのではなく当該プロジェクトから生み出されるキャッシュフロー(収益)に限定し、担保をもっぱらプロジェクト資産に依存するファイナンス方法である。もともと資源開発、土木工事、エネルギー開発等、特定の資産価値(=担保)や調達主体の現状の信用力だけではカバーしきれない先行投資型プロジェクトを対象とした手法である。

今まで病院へのファイナンスは、病院の土地建物という資産を担保に行なわれてきた。しかしながら、病院という業態は非常に特殊であり、その土地、建物が原則病院以外に転用できないこと、一旦構築してしまうと病院機能(一般病床、療養型病床の区分)を越えて変更することができないこと、病院として立ち行かなくなったときにそこを購入して新たに病院を運営する者が限定される、等の特色をもっている。ゆえに、そもそも病院の土地建物は担保という概念にそぐいにくい。

このため債権者側は病院への有担保融資の場合であっても、病院の土地建物の価値を評価するだけではなく、施設更新・設備拡充という融資の目的となるプロジェクト自体の事業性を評価し、そのプロジェクトから生み出されるキャッシュフローが償還するに十分か、を判断することがそもそも必要であった。(その判断が出来ていた、ということではない。)

病院向けのプロジェクト・ファイナンスは、この考え方を更に進め、病院の事業性のみを評価対象として、融資を行なう方法である。プロジェクト・ファイナンスを実行するには、有担保融資を実行するのに比べて、当然であるが債権者側に業界知識や事業能力が必要となる。特に最近の案件の多くは、再生型案件であったり、金融機関が既に融資をしていて追加貸出しを躊躇している案件であったり、対応が難しいものが多いため、事業の評価だけではなく、投資を行いながら病院の再建を実現する方策を検討しなくてはならない状況である。

2)プロジェクト・ファイナンスの要件

プロジェクト・ファイナンスの実行には、同時に病院にもより高い能力が求められる。プロジェクトの事業性に対する融資であるため、施設更新・設備拡充という事業の成功可否が問われる。このため、病院側には「投資が生きる事業を計画」し、「実現性・成功確率を上げる」とともに、債権者に「事業の成功を信じてもらう」能力が必要となる。より具体的には、①客観分析:自院のポジショニングを客観的に把握すること、②戦略立案:厚生行政だけでなく、地域のお客様(患者、他医療機関、施設等)のニーズと自院の能力を勘案しながら戦略を立てること、③事業計画策定:戦略を将来の収益計画として数値化し、誰がいつ何を行うのかという実行計画まで落とし込むこと、④組織・業務改革:戦略、事業計画の実行に向けて組織をつくり、責任権限、業務プロセス、評価方法を明らかにすること、⑤指標管理:事業計画が順調に推移しているか、主要な指標(KPI:Key Performance Indicator)に基づき客観的に評価し、素早い対応と適切な情報開示を可能とすること、である。

ここで一つ重要なのは、「事業計画」が一般的に病院が金融機関へ提示する「資金調達のための計画」ではなく、ニーズや戦略に裏打ちされた本当の意味での「事業の計画」であることだ。これに付随する実行計画では、具体的な運営責任者、期限等も設定されているため、実現までのステップが細かく想定されている。更に、指標(KPI)管理を行うなかで、院内で事業の進捗状況が管理・把握されて要因分析、早期対策が可能となるだけではなく、タイムリーな情報開示にも役立たせることができる。

これをご覧頂くと自明だと思われるが、上記は病院内でそもそも事業を遂行する上で必要な経営能力・体制を施設更新・設備拡充という事業を契機に病院に導入しているのであり、そもそもは資金調達の必要性を問わず、実行すべきことであった。

3)プロジェクト・ファイナンス対象

現在プロジェクト・ファイナンスの手法で対応している案件は、新病院の移転・新築、増築・業容の拡大等の積極的なものから再生案件まで幅広い。ただ、いずれにしても取り組みの第一ステップは、何故施設更新・設備拡充を行うのか、をヒアリングすることから始まる。施設更新・設備拡充に必然性があり、経営者が計画策定から実行までやりぬく意思がある場合もあれば、意思はあるのだが必然性のない場合、はたまた現在の債務返済を軽減したい場合など、ファイナンス・ニーズの背景は様々である。後二者の場合は、事業性に疑問が生じるため、(少なくともそのままでは)プロジェクト・ファイナンスの対象とはならない。

今までの実績や裏づけがなく、「高度検査・治療機器を入れたら(必ず)患者は来るはずだ」であるとか「新館を建てたら(今は病床が空いていても)今後、入院患者で満杯になる」等、論拠に乏しく、医療供給が需要をはるかに上回り、単価が十分に確保できていた時代の考え方だけをされている場合は、仮にプロジェクト・ファイナンスに向けた作業に取り組み始めたとしても、計画策定や実行に向けた経営体質作りの途中で頓挫する可能性が高いと思われる。

ただ、反対に論拠がはっきりしており、必然性も経営意思も高い場合、既存の債務がある場合も取り組むことがある。既存債務が多大な場合は、既存債務を含めて全体のリファイナンスを行ない、追加投資を勘案して既存債務の返済スケジュールを見直すこともある。当然、既存債務者にとって必ずしも喜ばしいことではないが、必然性のある追加投資を行わないことにより病院の価値全体が徐々に劣化していく(同時に、既存債務の価値は限りなくゼロになる)ことを防ぐことが重要である旨と、追加投資をし、返済スケジュールを見直したほうがむしろ既存債権者にとっても安全であることを理解して頂く。

病院の場合、既存債務の存在が現在の病院経営者と関係ないことも多々みられるが、そうでない場合、病院経営にも反省と覚悟を迫ることがある。既存債務の返済が滞っている場合、もしくは将来的に滞る可能性が大である場合は、経営者の意識としては「事業拡大」であるが、実質的には「事業再生」と呼ばざるを得ず、何故過去の債務が返済できなくなったのか、例えば当初の投資計画が過大だったのか、計画が実行されなかったのか、と今後同様の問題が起こらないようにするにはどうすれば良いのか、を検討する。

4)プロジェクト・ファイナンスの前半ステップ

以下、プロジェクト・ファイナンスを実行するに当たって必要となるステップのうち、自院の状況を分析して戦略的方向性を立てるまでの前半の流れについてご説明する。後半のながれについては次号に譲る。

1.客観分析:

客観分析は、3つの方法で行なう。具体的には、私どもで開発した「医療経営ベンチマーキング調査」を用いた病院機能に関する現状分析と、病院の債務負担能力に関するファイナンス分析と、外部情報によるマーケティング分析である。

「医療経営ベンチマーキング調査」は病院経営を総合的に把握する独自の手法で、現在の経営状態だけではなく、戦略とのギャップや経営・オペレーション能力、将来リスク等を把握するために用いている。

ファイナンス分析においては、財務分析を行ない、債務の返済能力を検討する。貸借対照表上の分析としては、既存債務をキャッシュフローと比べて実質的に返済可能か(債務が7~10年分のキャッシュフローの範囲に収まっているかどうか等)をチェックするとともに、損益計算書上の収益力を分析する。病院の場合、医療機器の償却不足や廃棄資産の未償却があることが多いので、それらは一般的な会計方法に基づいて処理し計算し直す。

また、損益計算書上は、利益が出ているかどうか、だけではなく、利益(もしくは損失)をもたらした要因が何であるかを明らかにし、それが将来的なメリットもしくはリスクになりえるかを検討する。例えば大幅な利益が出ている場合も、例えばそれが一つの部門(透析等)に大きく依存している場合は将来的なリスクを抱えることになろう。また、病院でよく見られる高い人件費率も、人件費の絶対額が高いのか、人数に見合った患者数が得られず生産性が低いのかによって意味合いは異なる。このように、ファイナンス分析では、結果の分析だけでなく、「何故」を分析することにより、病院の経営実態のホーリスティックな評価を行なう。

マーケティング分析は、事業を検討する上で非常に重要な要素となる。いかに良い設備で良い医療を提供しても、そこに地域のニーズがない、もしくは遥かに強力な競合が存在すれば事業としては成り立たない。マーケティング分析では具体的に、診療圏の患者数・属性を特定し、そこでのシェアを想定することにより、新事業による獲得ポテンシャルを推定する。

診療圏の広さに関しては、いわゆる「地域ナンバーワン」の高機能病院を目指すのであれば二次医療圏が対象となるし、一般病院であれば市町村くらいの大きさとなろう。これをダブルチェックするために、かならす患者調査を行うことによって、どの程度の距離から現実的に患者が来ているかを明らかにする。実際来ている商圏みると、メインの科目は隣の市町村からも患者を呼ぶ「引き」があるのに対し、その他の科目は近隣のみ診療圏が診療所程度の広さであることが分かることもある。この場合、施設の建替えだけでは容易に診療圏は拡がらない。また、診療圏に関しては現在のポテンシャルだけでなく、将来性を把握しておくことも重要である。高齢化に伴い医療ニーズは確実に増加するため、診療圏内の高齢化の状況およびそれに伴う疾病構造の変化をとらえ、将来の患者数・属性のシュミレーションを行う。
 診療圏を特定し、現在および将来の総数に関してシュミレーションを行った後、自院が獲得できる患者の「シェア」(患者総数のなかで、何%が自院で獲得できるか)を考える。医療界では、シェアは一般的に語られることが少ないが、実際は非常に重要な概念で、入院・外来、科目別のシェアだけでなく、救急車のシェア、連携における紹介シェア等各種の切り口で分析することが有効である。シェアの元となる数字は統計上まとまったものが少ないので、積極的に外に行ってヒアリングを行う。ちなみに、日ごろ直接顧客の声を聞くことの少ない病院の職員にとって、ヒアリングは意識改革のステップになることも多い。他病院、施設、救急隊、患者は意外と思われるかもしれないが、競合についての情報を含め、かなり多くのことを語ってくれるものである。

上記の一環として患者アンケートを行うことも多い。アンケートを設計する上では「トイレはキレイでしたか?」というような一般的な満足度を把握するものではなく、「何故この病院に来たか?」、「他にはどこに掛っているか?」、「高度手術が必要となったらどの病院に行くか?」など、やはり競合とシェアの分析を意識した設計にすることが重要である。

2.戦略立案:
上記の客観分析をもとに病院の戦略をまとめ上げる。客観分析の結果、病院が「地域で担っている」もしくは「求められている」と感じている役割はかなり感覚的なもので、本来的に求められている役割とは異なることが多い。地域で求められている役割をそのまま果たす必要はないが、客観的事実を見詰め直すことにより、より実現性の高い戦略策定が可能となる。

戦略策定に当たっては、3つのC(Customer、 Company、 Competitor)のフレームワークを用い、地域のニーズ(Customer)と自院(Company)の強み・弱み、競合状況を目指すのか(高機能急性期、一般急性期、亜急性期、療養型等)、どこに強みを持つのか(診療科、患者層、手技)、どこと連携するのか(前方、後方)、を決め込んでいき、そのために必要な医療資源、施設・設備、サービス機能を特定する。

ただ実際の考え方としては、「病院の機能を先に決める」のではなく、「地域のニーズ、競合状況から積み上げる」ほうが健全である。客観分析を参考としながら、自院が獲得できる患者はどういう属性のもので、その患者に対してどういう医療を提供することが地域医療のなかで求められる役割を果たすことができ、最も付加価値が高いかを検討し、自院の意思・能力を加味した結果、必要な医療資源、施設・設備、サービス機能と病院機能が決まっていく。

例えば都心にある100床クラスの病院のケースであるが、ここは複数の高度急性期病院に囲まれて、施設も老朽化しており経営的には非常に厳しい状況であった。一般的に考えると地域のニーズは療養型病床群であるが、立地・敷地面積の関係で療養型病床群の施設基準を充たす病院に建替えることは非常に困難と見受けられた。更に、地域のニーズを精査してみると、三つのニーズが存在していることが分かり、それをもとに戦略を再構築した。一つは地域にかなり多くの若い開業医が増えており、病院における診察環境になれているにも関わらず高度検査機器に投資できない状況にあったこと。二つは、近隣の高度機能病院が平均在院日数を15日に短縮する努力をするなかで、完全に医療的に治療が終了していない患者を出したいというニーズや、亜急性リハの適用の脳外科・整形外科以外にもリハビリ適用の患者が退院してきていること、三つ目は周辺に在宅介護、老人ホーム入居の老人が多く、検査入院、胃ろう等の小手術、緊急対応入院のニーズが存在していること、である。この病院の場合は、病床区分自体は一般のまま、近隣診療所に対する検査センターして、高度急性期病院のバックアップ病院として、在宅・老人ホームのバックアップ病院として機能を果たす戦略を選んだ。

ちなみに、地域のニーズの精査や戦略実行方法の検討をせず、いわゆる「流行モノ」を追いかけるのは危険である。昨今非常に話題になっているPET検査機器を入れたが、地域に自由診療で受診するニーズが少なく、病診連携ルートを十分に確保しなかったため立ち行かなくなった例であるとか、介護保険適用病床を全体の5%ほどだけ作ったが、たった5%のために毎月必要な書類手続きだけで人件費を含めると採算割れしているケース等、枚挙に暇がない。

さて、以上がプロジェクト・ファイナンスの前半ステップであるが、次号では、後半ステップをご紹介し、実際の資金調達まで繋げるプロセスについて論及させて頂きたい。

医学書院 「病院 第63巻 第2号」 
特別寄稿 「病院資金調達の円滑化に向けて (中編)」


執筆:大石佳能子 Kanoko OISHI
株式会社メディヴァ 代表取締役。大阪府出身。幼少時代をニューヨークで過ごす。大阪大学法学部卒、ハーバードビジネススクールMBA、マッキンゼー・アンド・カンパニー(日本、米国)のパートナーを経て、メディヴァを設立。