ヘルスケアの「明日」を語る

医療経済・経営、今後の展望

2005.11.29

人口構成の変化は、どこの業界にも影響を与えるが、医療界においては需要者側にも供給者側にも、ことさら大きな影響を与える。需要者側では、当然、高齢化に応じて患者数は増える。5年前は約16%であった65歳以上人口比率は、これから5年のうちに約21%まで5ポイントも上昇すると予測されている。加齢により疾病は増えるので、高齢化とともに受療率は上昇する。例えば、循環器系疾患を例にとると75歳以上の入院受療率は55~64歳の約10倍である。当社の分析によると、高齢化が16%から21%まで上昇すると患者数は最大1.5倍に増加する。

患者が増えることは、医療界全体としては需要が伸びることを意味するが、問題は2つある。一つは、マクロの数字はミクロ的に検討すると凹凸があり、科目によって影響度合いが異なることである。ミクロレベルで検討すると、今後大幅に増加することが見込まれるのは、循環器系、骨格系、皮膚科系の疾患で、伸びないものには周産期系疾患は当然としても、急性上気道炎、外傷、神経系の疾患が上げられる。

もう一つの問題は、財源が限られている場合は、需要側の伸びは必ずしも供給者側に良い結果をもたらさないことである。患者数が1.5倍伸びたにも関わらず、仮に医療費財源が全く不変であれば、それは33%の診療報酬切り下げを意味する。医療機関は、病院、診療所ともに人件費や機材の減価償却等の固定費が高いため、価格の切り下げは利益減に直接大きく響く。比較的固定費が低いと言われる診療所ですら、利益率は7~10%であるため1%の診療報酬切り下げは利益の10~15%減を意味する。

人口構成の変化が医療供給者に与える影響

一方で、人口構成の変化は、供給側にどういう影響を与えるのであろうか。医療の供給者である医師の数は一県一医大政策の影響もあり、1980年当たりから大幅な増加を見せている。1980年には約15万6千人だったのが、2000年には25万6千人となり、この間64%も増加している。医学部の定員が大幅に増えたのが1980年から90年の間の十年であるが、その時の卒業生が現在40歳~50歳を迎えている。医師は高齢化とともに大学附属病院・一般病院からは院外へ流出する。1996年に病院に勤務していた医師が、そのまま4年間病院に居たときと、2000年に実際病院に勤務していた医師の差分がこの間の「病院外への流出」となり、約6千人が病院外に流出していたことが分かる。同じく大学附属病院からも約6千人が流出している(図参照)。この1万2千人の行き先であるが、この間、約9千人が診療所の院長となり、約3千人が診療所の勤務医となった。診療所の総数が約9万であるため、少なくとも1割が若返っているのである。

上記の流出入は、今後医療制度改革により病院の機能分化・病床の削減が行なわれることによって促進されると予測される。病床数は1990年をピークに10年間で約5%減少した。減少傾向は医療制度改革によって促進されており、海外の人口対比の病床数と比較すると、今後10年程度で30~50%減少する可能性もある。仮に30%だと仮定すれば、さらに4万6000人が開業することになり、診療所の数は最大現在の50%増加する。

では、診療所を開設するに適した立地は、そんなに多く存在するのだろうか?新規開業の内科診療所を成り立たすためには、患者数が一日40人は必要である。一般的に診療所の商圏は500メートルといわれ、競合も最低2~3箇所はいるため、この圏内に少なくとも1万人の人口が居なくてはならない。加齢と共に受療率は上がるので、背景人口が高齢化していればしているほど、開業立地としては適していることになる。当社では、開業する医師のために立地・商圏調査を行なっているが、例えば目黒区、世田谷区という都心の人気地域では、何丁目レベルの詳細分析に落とし込むと、「必ず成功する」開業に適した場所はもう目黒で2箇所、世田谷で3箇所しかない。全国レベルでは、内科の診療所は約6万箇所で飽和するが、すでに既存の内科診療所は2000年で6万を越えており、理論上は飽和状態に達していることとなる。

飽和状態の市場で成功するには

当社の経験では、市場が飽和し、競争が厳しくなると成功するには3つの方法しかない。一つ目は「間口を広く」し小児科、皮膚科、婦人科で患者数を確保し、徐々に生活習慣病患者内科系の高単価患者を増やす方法、二つ目は特定の疾患・手技に特化し「患者を広域から引き込む」方法、三つ目は診療所が入ることにより事業メリットがある企業(例えば、入居者への付加価値を高めたいマンション・デベロッパー)と組み、賃料を大幅に下げるなど「コスト構造を抜本的に変える」方法である。

日本社会全体が人口構成の変化によって大きな転換を迫られているのと同様、医療界も大きなチャレンジを迎えている。このような状況のなかで、求められるのは闇雲に走るのではなく、周りの状況を客観的に分析し、冷静にベストな選択をする能力と勇気ではないだろうか。