ヘルスケアの「明日」を語る

病院資金調達の円滑化に向けて(1)

2005.05.19

医療制度改革が進む中、病院経営は先行き不透明感を増している。同時に、昨今の金融環境の変化により、病院にとっての資金調達は益々困難となっている。病院の場合、運転資金の調達には殆どの場合困らないが、施設更新・設備拡充等に必要な大型の長期資金調達に関しては、優良とされる病院でも課題が生じている。病院債の可能性、格付け機関の出現等、新たな試みも発生しているが、病院をとりまく金融情勢はけして楽観すべきものではない。

本稿では、病院をとりまく経営・金融環境を再分析するとともに、あおぞら銀行㈱とともに当社が取り組んでいる「医療経営評価プロジェクト」(ベンチマーキング調査)と調査結果を参考にしながら実施しているプロジェクト・ファイナンス型の資金提供手法について言及させて頂きたい。

そのなかで、主たる読者であると想定される病院経営者・管理者の方々にとって関心事であると思われる下記の3つの論点についてのご説明を試みる次第である。その3つとは、①病院債、格付け機関が出現することにより病院の資金調達は円滑になるか?、②病院における資金調達を円滑化させる要件とは?③プロジェクトファイナンス型手法での資金調達は具体的にどういうステップを踏むのか?である。

1) 病院を取り巻く金融情勢

筆者は、先般の厚生労働省による「これからの医業経営の在り方に関する検討会」の委員を勤めさせて頂き、同検討会のなかで、病院資金調達問題について発表させて頂いた。 

 たった1年前であるが、当時は今ほど病院における資金調達は逼迫した問題として受け取られていなかったように思われる。「病院は日常的な資金調達に困っていない」、「調達に困って倒れる病院は、よほど乱脈経営を行っている病院」、という意見が検討会でも大勢を占めた。病院の場合、診療報酬が定期的入金されることと患者の自己負担部分のキャッシュが常に日銭として入るため、短期資金に関してはボーナス時でもなければ問題が生じにくい。更に原因が資金難であろうとなかろうと、そもそも事実上の倒産は法人間の買収として処理され、統計的に一般の目に触れることがないことも切迫感がない一要因であったと考えられる。

しかも現実的には、最大の問題は資金調達ができないために「倒産する」ことではなく(資金不足で倒産するのは運転資金が足らない場合で、前述のとおりむしろ稀)、「建物更新・設備拡充ができない」ことである。病院の場合、事業価値維持や継続的な発展のために不可欠な建物更新・設備拡充には30~100億円の資金が必要とされるが、「できないので、しない」、という当座しのぎのオプションもとりえる。この場合、借入金の返済・利払いも減価償却費もないので、当面経営状態が良くなったように見えるが、長期的には地域で必要な医療の質を支えられない、という問題が発生する。

最近、建物更新・設備拡充を行なう際、民間金融機関を当てにしていたが色よい返事がもらえず、行き詰る例が散見される。最近、筆者が相談を受けた「建替え資金に困っている」病院のうちいくつかは、地域ではナンバーワンと言われるクラスの病院で、過去金融機関との関係も概ね良好であった。後ほど、「要注意先」を判定する方程式をご紹介するが、方程式に当てはまる病院の場合も、一見すると健全な収益性を保っているように見えるのである。

病院の資金調達難の背景としては、全国的な不良債権問題の深刻化により金融機関に対する規制が強化され、公的な役割も担い、地域の重要な産業・雇用主である病院に対しても他の産業と同様不良債権の管理を行わなくてはならなくなった、という状況がある。

しかしながら、これは別の言い方をすると、他産業と同等に比べたとき、以前からあった病院の資金調達問題が最近顕在化してきただけ、とも言うことができる。病院の場合、過去の施設更新・事業拡大時に発生した既存債務(残債)が残されていることが多く、ある金融機関によると条件変更(返済期間の見直し、利息のみの返済等)を行なった病院は貸出し数の7割にも及び、過去からけして全面的に歓迎すべき顧客ではなかったようである。

我々のところに持ち込まれている案件でも、当初のお話は施設の建替え(場合によっては増床)による「拡大成長資金」の必要性についてのご相談だったものが、実際中身を詳細検討していくと、実質的には「事業再生資金」へのニーズであるというものに遭遇することがままある。これは、有利に話を進めるための弁法として病院側が「拡大成長」と言われたのではなく、単に病院経営者の自院の経営状態や金融環境への認識不足、判断の誤りにより生じていることが多い。

当初の開設後もしくは最終の大規模設備投資後20年を経過していて、設備債務が年商の7割以上残存している病院、残存長期債務が年間のキャッシュフローの10倍以上(基準の緩い銀行では15年以上)存在している病院は、実質的な「要注意先」として見なされることが多い。(気になる方は自院の財務諸表、損益計算書からざっくり計算されてみられることをお勧めしたい。キャッシュフローは、当期利益に減価償却を足しこんだ簡便なのもの、で可。)

今まで予定通りに返済、利払いを行い表面的には問題のない債務者である病院の場合でも、建替えにより大規模な設備投資をすると、追加投資を含めた返済を当初の条件通りに行うことは困難となり、既存債務をカットするか条件(スケジュール等)変更を要することがある。これも、ものの定義上「事業再生先」のなかに含まれる。

病院経営者がよく口にする「普段はとっても愛想が良く、ボーナス時の運転資金も積極的に貸してくれるが、建替えや将来的な設備投資の話をすると何時まで経っても明確な返答が得られない」という場合は、上記のいずれかに当てはまることが多い。こういう場合「でも、今までも貸してくれたのだから、大丈夫」と楽観視していると、痛い目に合うので注意が必要である。

2) 新金融手法の可能性

昨今、病院債や株式会社化を行なうことにより市場から資金を直接調達する手法についての討議が活発になっている。この議論は「病院の資金調達難」という課題に焦点が当てられた、という意味では非常に有意義であるが、所詮「資金調達の手段」に関する論及にすぎず、本質的な問題を押さえてない、と思われる。病院の資金調達において本当に問題なのは、その「手段」が融資等の間接調達手法に限られていることではなく、病院側に経営のプロが少なく、資金提供側(銀行、投資家)に評価のプロが少ないことにある。

病院側は、急激に困難になる病院経営を舵取りする術を十分に持ち合わせておらず、経営体制、情報開示も立ち遅れている。一方、資金提供側も病院経営のポテンシャル、リスクを十分に評価し、その評価内容に応じて資金提供を行なう能力に欠けている。すなわち、双方の能力不足から、両者の間には大きな溝があり、これは手法の多様化だけでは埋まらないと考えられる。

米国においては病院債が歴史的にみても多用される資金調達手段であり、大手病院であればその必要資金の50%~90%を病院債の発行に頼っており、その発行をサポートするインフラとして格付け機関や信用補完会社が存在している。日本の場合も、病院債の発行による病院の資金調達の可能性が論議されており、格付け機関による病院評価が取り組まれているが、病院経営の歴史が大きく異なるためなかなか進まないのが現状のようである。米国の場合、民間の非営利病院はチャリティとして運営されることが多く、寄付金を集めるため情報公開とガバナンスの体制が古くから整っていた。このため、格付けを行うにも十分に情報が集められる状況にあった。

ある格付け機関は、米国で病院の格付けの際に用いている基準に準拠しながら、日本の法律、規制、経済、文化などの環境を反映して調整を日本における病院格付けを試みている。基準のなかには、組織、経営体制、病院の運営、財務内容等も含まれているが、日本の病院統計が医療業界の全体像を把握するために十分とはいえない状況や、個々の病院の経営数字が必ずしも横並びで比較できるものではない問題、またそもそも必要な情報が個々の病院からとりにくい問題等が有効な格付けを阻んでいるようである。

また今後格付けを行うに足る情報が業界全体、各病院から容易に取れる状況になっても前述のように実質的に「事業再生資金」が必要となっている病院が実態に合わせた格付け評価を受けた場合、資金調達の困難さは変わらないと思われる。

さらに、現在病院債発行の指針として、経営内容の開示、発行目的の明確化、運転資金への利用禁止等に加え、病院経営の介入の禁止や病院債売買の制限等が検討されている。投資家にとって病院債は一つの選択しにしか過ぎず、他の投資対象との比較の上で投資判断を行なうため、いたずらに発行条件を制限することはむしろ病院債の魅力を下げる結果だけをもたらす危険性がある。特に日本の場合、米国のように厚い投資家層がおらず、一般投資家は病院経営に関して知識を有しない状況であるため、ただでさえ一般企業への投資より、高リスクと感じているのである。

3) 円滑な資金調達ができる病院になるために

では、円滑な資金調達を行うために、病院経営者はどう対処すればよいのであろうか。非常に俗な言い方をすれば、調達手段は病院債であろうとなかろうと、「調達した資金を条件通り返済する能力」と「返済するという説得力」をつけるしかないのである。このためには、経営能力、ガバナンス、情報公開能力の3つをつけ、病院の事業価値を上げる必要がある。
 投資家が一般企業を評価する場合、「市場・業界が魅力的か」、「事業体が魅力的か」、「経営者が魅力的か」、「事業計画が魅力的か」という4つの視点が重視される。これに加えて、融資という調達手段の場合は、「担保が魅力的か」という点が加わった評価となっていた。
  「市場・業界の魅力」に関していえば、病院は昨今の医療制度改革の荒波に曝されて、個々の病院の責めに負わない理由により収益性が大幅にぶれる可能性も否めない。しかしながら、高齢化社会を迎える日本においては数少ない長期的成長性の見込める市場・業界であり、病院の提供する医療サービスへのニーズはけしてなくならない。このため、業界は今後二極化する可能性が大であり、語弊はあるが「勝ち組」と「負け組み」に分類されていくことになると思われる。病院に迫られているのは、いかに「勝ち組」に入るか、という点である。
  「事業体の魅力」に関しては、そもそも公共性・非営利性を前提としているため、そもそも売上げ、利益の最大化を目的としていない。また一般企業と経営のポイントが異なるため、医療界以外の人には経営内容が容易に評価できないという問題が発生している。特に情報公開が不十分であり、また専門的な経営者、企画管理担当が存在しにくい病院では、自院を評価する客観的な数値や自院の指針となるべき事業計画をもたない場合も多く、事業体の魅力度に関して観念論的、印象論的な言葉で語ることが多いため、説得力を持たない。ここでは、いかに論理的、客観的に「魅力のある事業体」であるかを証明することが必要である。
  「経営者の魅力」に関しては、病院経営者である医師には不本意であろうが、一般的に医師は経営者としての信用力が低く見られている。これは医師という職種が一般の人と交わる機会が比較的少なかったこと、および誤解も含め必ずしも職種として良い印象を与えていなかったことに起因すると思われる。私どもの経験では、医師は科学者としてのトレーニングを積んでいるため、客観的事実(経営数値等)とロジック(内外の環境・状態から必然的に導き出される経営的帰結)に関しては、ファジーな一般企業の経営者よりむしろ理解が早く、革新的であることもまま見られるのであるが、大半の医師は過去に経営者として専門的な知識・能力をつける機会がなく、しかも楽に経営できた時代の経験を引きずっているため、本来もっている「経営者の魅力」が引き出されない状況に陥っているのは残念である。
  「事業計画の魅力」に関しては、病院はそもそも一般業界とは「事業計画」という用語内容の相違が見られる。病院において事業計画とは資金調達に必要とされる数値計画を指すことが多いと思われるが、通常事業計画とは、事業体の置かれた環境分析から入り、過去の成果等を紐解きながら、今回の行う投資の必要性、有効性およびその収益上の効果や実行体制・方法について論じる総合的な計画書を指す。また数値計画においては各数値の将来的な増減について論拠を示すことが必要となり、「とりあえず5%アップ」というような感覚ベースのものは許されないのである。
  病院にとっては、いかなる時代においても投資家から資金を引き出すときには、いかなる調達手段であっても本来的には上記の魅力度を相手先に感じさせることが必要となる。過去において魅力度について金融機関が疑問視していたとしても、「担保の魅力度」だけで融資を実行していた。担保を評価する場合、事業体、経営者、事業そのものを評価する必要はなく、土地建物という物件を評価すれば事足りたのである。しかしながら、近年土地の担保価値は下がっており、また冷静に考えると病院の土地、建物は病院以外には転用しがたいため、融資する方も担保のみに頼ることはできなくなっているのである。このため、病院にとっては、結局、経営能力、ガバナンス、情報開示の問題をクリアし、各種魅力度を上げていくしかないのである。

4) 実態の評価:ベンチマーキング

経営能力を向上させるには、現在の自院の実態を客観的に把握することが第一ステップではないか、と筆者は考えている。ところが、今まで病院が自院のポジショニングを把握したいと考えても、それを実行できる方策が余りにも少なかった。公に取りまとめられ発表されているデータは、地域、機能、レベルに分かれておらず、経営的な観点からデータの収集比較を行なっていないためポジションニング比較には使えない。

一つの解決策を提示すべく、当社は昨年よりあおぞら銀行㈱とともに、「医業経営評価プロジェクト」というベンチマーキング調査に取り組んでいる。これは、長年病院へのファイナンスに取り組んできたあおぞら銀行のノウハウと当社が培った医療機関経営ノウハウを組み合わせて作りこんだもので、一昨年の調査には、医療、経営ともに医療業界ではトップクラスとされる病院も含め、40以上の病院にご参加頂いた。今年度は60病院程度のご参加頂く予定である。

 同調査では、病院の収益性と機能パフォーマンスを評価する。各病院に調査票を記入して頂き、それを比較分析し、フィードバックのレポートをお返ししているのであるが、調査項目数は定量データが約600、定性データが約600、指標の種類は約450となる。  

同調査は、病院のパフォーマンスの良し、悪しよりも、要因(「何故、そうなっているか」)ということを経営指標に照らし合わせて構造分析をすることに重点を置き、改善のポイントが明らかなることを目指して設計した。ようはそのまま経営管理、指標管理に使えるデータを取得し、それを元にベンチマーキングを行うのである。これだけのデータはまず揃えることが非常に労力が掛り、ゼロからスタートしてフルバージョンのデータを揃えるとなると、非常に労力が掛るが、一旦揃え、継続的に採取する仕組みを作ると経営する上で必要な各種数字が揃うような設計になっている。

例えば、病院の収支は「収入」と「支出」に分かれ、「収入」は単純に言うと「患者数」X「単価」に分解される。さらに「患者数」を更に指標に落とすと経路別に「外来(経由)」、「紹介」、「救急車」に分解され、「単価」に関する指標としては「平均在院日数」、「病床単価」、「病床利用率」に落とし込むことができる。「支出」は主要な支出項目別に、「人件費」、「材料費」等に分解することができ、「人件費」は「職種別人数」、「職種別単価」に落とし込むことができる。主要機器の「回転率」等のデータも把握する。これらを更に病院の機能毎(「外来機能」、「入院機能」、「手術機能」、「療養機能」等)に分析し、細かく要素分解したものを検討することによって病院が現在持つ能力(集患力、労働生産性・付加価値、施設生産性等)を分析するとともに、病院機能としての潜在的能力も推測することができる。

 このデータを元に、個別病院分析レポート、個別病院の全項目・全指標ベンチマーク表(ランク、偏差値)、定性項目に関しての統計的分析を行い、1病院当たり80から100ページのレポートにまとめてお返ししている。

同調査では、結果だけでなく要因分析が可能なので、必ずしも結果が良い病院が、評価が良いとは限らない。例えば、400床クラスの総合病院が2つあり、一つは病床単価が約50,000円代、もう一つが約45,000円だったとする。結果だけを見ると、前者のほうが良いように思えるが、前者の病院においては循環器の単価は突出しているが、他の科目は平均より低く、総合病院として看板は出しているが、実態としては高単価科目に依存した病院であることが分かる。

一方、後者は総合的に地域の中核的機能を担う病院で、すべての科目において平均単価を上回っているため、極めて安定感が高い。また両病院における経費率や手術室や検査機器の稼動状況を比較すると、前者より後者のほうが、経費率(特に材料費)が低く、検査機器も総合的・安定的に稼動していることが分析される。

5)「医業経営評価プロジェクト」の更なる活用

 「医業経営評価プロジェクト」は、各病院の経営的ポジショニングをベンチマークすることを目的としているが、私どもは同時にこれをプロジェクト・ファイナンスの基盤としても活用している。

「プロジェクト・ファイナンス」とは「特定の事業(プロジェクト)」に対するファイナンス手法であり、償還原資を調達主体(病院)の信用力に依存するのではなく、当該プロジェクトから生み出されるキャッシュフロー(収益)に限定し、担保をもっぱらプロジェクト資産に依存するファイナンス方法である。

プロジェクト・ファイナンスは一般の融資(コーポレート・ファイナンス)が調達主体(病院)の信用力に依存し、多くの場合は土地・建物等資産に担保を設定するのに対し、プロジェクト・ファイナンスは過去の実績ではなく、将来の事業性に対するファイナンス方法だとも言える。次回に説明させて頂くが、病院ファイナンス派は元々プロジェクト・ファイナンス的手法に親和性が高く、またプロジェクト・ファイナンス的手法を経ることにより、病院に必要とされる経営能力、ガバナンス、情報開示が育まれると考えている。

現在、プロジェクト・ファイナンスとして取り組んでいる案件には、「拡大成長」型案件だけでなく、「事業再生」型案件も含まれている。後者の場合は、既存債権者と既存債務の整理を行い、再生投資に見合ったファイナンス額・方法を設定することにより、全体として事業性を確保する。

 「医業経営評価プロジェクト」におけるベンチマーキング調査は、ファイナンス対象となる病院の収益性だけでなく、収益性をもたらしている要因(もしくは改善点)を明らかにすることができるため、投資以外の必要実行事項(アクション・プラン)と実行の成否を示唆するには有効な材料でとなる。また、より偏差値が高い病院と比較したポテンシャルを明らかにすることができるため、事業計画の妥当性をシュミレーションする時点でも活用している。プロジェクト・ファイナンスの内容と方法の詳細については次回に詳しくご説明させて頂きたい。

医学書院 「病院 第63巻 第1号」

特別寄稿 「病院資金調達の円滑化に向けて (前編)」