ヘルスケアの「明日」を語る

「医療⇔介護」~シームレスなつながりをつくるには~(1)

2004.08.28

2004年現在、高齢者比率は全人口の20%に近づき、本格的な高齢化時代は目前である。統計的に見ると、65歳以上人口は、若年層の約5倍の医療ニーズがあり、12.5人に1人は要介護2以上となっている。

「医療」と「介護」は、これからの高齢化社会において極めて重要な課題であることと、双方が極めて密接に関連していることは自明の理であると思われるが、この2つが制度上別のものとして取り扱われている結果、両者間の溝は極めて深いものとなってしまった。

原因としては、医療の提供者が主として医師・医療機関であるのに対し、介護の提供者が営利法人を含めた様々な事業主体となっていること、医療保険が1961年、介護保険が2000年と両者のスタート時期に約40年のギャップがあること、また両制度が共に複雑で分かりにくいこと、等様々なことが上げられる。しかし、いずれにしても二つのサービスの提供者間で適切な理解・連携が確保されているとは言えない状況であり、これはどちらのサービスの利用者にとっても極めて不幸なことではないか、と思われる。

具体例として、老人ホームへの医療的サポートの課題をあげてみよう。有料老人ホームを始めとした各種老人ホームは介護保険が使える施設サービスとして、近年大幅な伸びを示している。多くのホームは「医療機関との連携」を宣伝しているが、実際は適切な医療サービスの確保に苦慮しているホームが多いのが実情ではないだろうか。

医療界では、現在、「医療機関同士の連携」、いわゆる「地域医療連携」が一つのキーワードとなっている。「地域医療連携」とは、診療所、中小病院、大病院がそれぞれ役割分担をしながら、お互い最も得意なことに特化し、連携することを言う。例えば大病院は手術や検査等、高度医療を提供する場であり、風邪の患者さんや糖尿病で薬を貰いに来た患者さんはむしろ診療所で診る方向性に進んでいる。但し、風邪の患者さんが肺炎を併発したときや糖尿病の患者さんが重篤な状態に陥ったときは、すみやかに医療機関同士で連携をとり、大病院に紹介・搬送する。「地域医療連携」が促されているのは、医療的効果、経済効率の両面から見て、各医療機関が得意分野に特化するほうが望ましいためである。

老人ホームは医療機関ではないが、入居者が患者さんになる場合が多いと言う意味では、本来的には「地域医療連携」のネットワークのなかに組み込まれてしかるべきものである。

しかしながら、実際は「地域医療連携」のネットワークから遊離している例が殆どではないかと思われる。ホーム自体が近隣の居住者に敬遠されがちなため、そもそも地域に溶け込むことが難しい場合もあり、近隣の医療機関からも医療的ニーズを理解してもらえないことが多々発生している。

制度が複雑で、施設形態も多様なため、地域の医療機関では、「老人が集合で入居している」=「老人ホーム」という括りで理解していることが多く、そこに嘱託医が居るのか居ないのか(「特別養護老人ホーム」は嘱託医がおり、「有料老人ホーム」は外部の医師が訪問して診療を行う)、看護師が常勤しているのか(平日日勤のみの場合から、365日24時間常勤している場合と施設によって様々)、等の医療体制を理解していない場合が殆どとなる。同時に、老人ホームの運営者側でも、地域にどういう医療機関があって、どう使い分ければ良いのか把握していない場合が多い。軽微な患者さんを、満杯状態の大病院に搬送し続けた結果、その医療機関から冷たく扱われるようになった例は後を絶たない。

ホーム側から見ると「入居者が病気になっても受け入れてくれる医療機関がない」、医療機関側から見ると「大変な時だけ、患者を押し付けられる」と、双方に被害者意識が発生している。ホームによっては、大金を払って協力医療機関を確保するケースも見られるが、その医療機関も軽微な患者さんへの日常的な医療提供から重大な疾病状況までフルラインでサポートすることは難しいため、結局は入居者側に不満が残るケースもあると聞く。

老人ホームが地域医療ネットワークから「浮いた存在」となっているなか、シームレスなつながりを作ることは、難しいことのように思われるが、本当にそうなのだろうか。次回以降に詳しくご説明させて頂くが、上記の課題は、①医療機関と介護施設がお互いの状況を把握し、②連携のプロセス・プロトコルを作成すること、によって解決した。「仕組みの設計」等のソフトの構築で解決する課題も多いのである。

「医療の安心」と「介護の安心」の2つの安心は高齢者の満足を確保する上で不可欠である。介護事業者にとって、医療との連携は成功の可否を決める非常に重要な課題であるが、医療機関にとっても医療保険と介護保険の両制度を理解し、サービス・ポートフォリオを設計することは経営上必要となりつつある。入院・外来に対する診療報酬のマイナス改訂は今後も続くと予想されているが、訪問診療等介護サービスと連携する医療分野に対しては当面政策誘導が続くのではないか、と予測されている。

このように、医療側にとっても介護側にとっても、また患者さん・受給者にとっても医療と介護が連携することのメリットが大きいと考えられるが、このたびの連載では介護と医療の双方向のシームレスな連携作りに向けて、現状ある課題は何か、その課題を改善し、解決する方法はあるのか、ということについてミクロ・マクロの視点から考えてみたい。

解決方法としては、上記の例のようにプロセス・プロトコルの設計、運営というソフト的解決と同時に、高齢者施設を兼ね備えたメディカルモール等、ソフトを組み込んだハード的解決に言及させて頂こと思う。同時に、ハード・ソフトでは解決できない問題はあり、それは制度上の課題として言及させて頂きたい。他の業界と同様、この分野においても、利用者本位のサービスを極めることが、新たなニーズを発掘し、ビジネスチャンスに繋がることは必至である。

月間シニアビジネスマーケット(発行元 綜合ユニコム株式会社)2004年8月号掲載


執筆者:大石佳能子 Kanoko OISHI
株式会社メディヴァ 代表取締役。大阪府出身。幼少時代をニューヨークで過ごす。大阪大学法学部卒、ハーバードビジネススクールMBA、マッキンゼー・アンド・カンパニー(日本、米国)のパートナーを経て、メディヴァを設立。